Samsung Electronicsの子会社で、独自仕様の半導体洗浄装置を製造している韓国の半導体製造装置メーカーSEMES(京畿道天安市:もとはK-DNSと称し、SCREENとSamsungの合弁会社)の営業秘密が中国企業に再び漏洩したことが明らかになった。
韓国の水原地検防衛事業・産業技術犯罪捜査部は、産業技術保護法違反、不正競争防止および営業秘密保護に関する法律違反(営業秘密国外漏洩)などの疑いで中国大手半導体製造装置メーカーの韓国子会社A社の代表取締役B氏と設計チーム長の2人を拘束起訴したと1月19日明らかにしたほか、同社関係者9人を同じ容疑で不拘束起訴したことを複数の韓国メディアが報じている。
韓国の検察によると、A社は2021年10月から2023年4月にかけてSEMES退職者から得た半導体洗浄装置の図面と工程レシピなどを活用した洗浄装置を製造して中国の親会社に輸出しようとした疑いがもたれているという。
B氏はSamsungの半導体部門出身で、在籍中に洗浄装置の詳細な設計図面を不正に取得。これを基に新たな輸出用装置を製造したほか、洗浄装置搬送ロボットの図面も盗用する形でロボットも作製したという。また、Samsungの洗浄工程レシピを活用した新たなレシピを作成した疑いもある。Samsungの半導体洗浄技術は、韓国政府が国家核心技術に指定しており、海外漏洩した者には重罪が課されることになっている。
韓国検察は2023年1月、国家情報院から情報を入手して捜査に着手。捜査の結果、B氏は2018年にSamsungなどの半導体メーカーに勤務した経験を有するエンジニアを迎え入れ、洗浄装置関連事業を目的とする企業を設立した。その後、2021年に中国大手半導体製造装置メーカーの直接投資を受け入れ、78億2000万ウォン規模で人材と技術をこの中国企業の韓国法人であるA社に譲渡。A社に異動したエンジニアたちは、それまで勤めていた企業から退社する際に不当に持ち出した技術資料をもとに洗浄装置の開発に着手していたが、2台の量産用洗浄装置の製造中に検察の捜索が入り、犯行が発覚したという。
韓国検察は、SamsungとSEMESが約30年間をかけて開発した半導体技術が流出されそうになったとし、もしこのまま技術流出が生じ、同じ品質の装置が海外で大量生産されれば韓国の半導体産業に回復不可能な損害が発生しただろうと説明しているほか、B氏らは「自ら開発したもの」と犯行を否定しているが、検察は資料に残された「デジタル指紋」を確認し、技術が盗用された事実を明らかにしたと説明している。
これまでのほとんどの韓国の技術流出が外国企業が高額年俸を掲げてSamsungやSK hynix、装置メーカーのエンジニアをスカウトする形であった。しかし、中国の大手半導体装置メーカーは、韓国のエンジニアや研究者が子どもの教育問題や親の介護問題などで国外生活を敬遠する点などを狙い、平沢市にA社を設立する形で、そうした課題を回避していることが示されることとなった。検察関係者によると、今回の捜査で外国企業が直接、韓国に技術入手のための拠点を設立するという、国家核心技術を国外流出させる新たな手口が確認されたと話している。
過去にも韓国半導体メーカーの洗浄技術が中国に漏洩
実はSamsungの洗浄技術・装置の中国企業への流出は過去にも起きていた。2023年1月、韓国水原地方検察庁防衛事業・産業技術犯罪捜査部がSEMESの元社員(主犯)、元研究員、協力会社代表、中国籍のブローカーら5名をSamsung仕様の極秘とされる超臨界流体を用いた先端DRAMウェハ洗浄乾燥装置に関する技術情報を中国企業に流出させた産業技術保護法違反および不正競争防止法違反(営業秘密の国外漏洩)の容疑で起訴している。
2016年にSEMESを退社し2019年に新たに半導体洗浄装置メーカーを設立した主犯の容疑者は2021年6月、Samsungが世界で初めて実用化した超臨界流体ウェハ洗浄・乾燥装置の図面をブローカー経由で中国企業に渡したという。
主犯とされる人物は中国半導体メーカーに超臨界洗浄装置10台(1台当たり248億ウォン)を納品、技術移転の協約も結んでいたともされている。これらの装置は、SEMESの協力会社が極秘に製造していたものとされ、SEMESではSamsungの依頼で費やした超臨界技術開発研究費(2009年から2021年までに約350億ウォン)などの直接損害を受けたと推定しているという。
2023年9月には別の韓国の半導体製造装置メーカーの副社長がSK hynixのウェハ洗浄技術やHKMG形成技術を中国の半導体メーカーに漏洩させた事件も起きている。Samsung元常務が、元部下に指示して工場のクリーンルームや設備にかかわる図面を盗み出し、それをもとに中国陝西省にて地方政府の資金援助を得る形でSamsunのg半導体工場をコピーした半導体工場の建設を進めたとされる事件で、元常務や関係者が2023年6月に水原地検から起訴され、現在裁判が進められている。
このようにSamsungやSK hynixの半導体部門の技術が次々と中国企業に漏洩しており、韓国の最高裁判所 量刑委員会は国家核心技術(韓国政府が指定した、半導体やディスプレイ、電機電子、自動車など13分野75項目におよぶ最重要技術)を国外に流出させる犯罪に対する懲役刑を最大18年とするように「知識財産・技術侵害犯罪量型基準」を修正して漏洩防止に努めているが、国家核心技術の中国への漏洩は後を絶たず、その入手方法も手が込んだものになってきている。