九州大学(九大)は1月9日、半導体性の二次元物質である二硫化モリブデン(MoS2)のナノリボンを化学蒸着法(CVD)を用いてサファイア基板上に高密度に成長させる方法を新たに開発し、ナノリボンの端が中心部の100倍近い触媒活性を示すこと、ならびにMoS2ナノリボンが半導体デバイスとして優れた電気特性を示すことを明らかにしたと発表した。
同成果は、同大 大学院総合理工学府博士課程のマ・ゾンペン大学院生、同大学院総合理工学研究院のパブロ・ソリス-フェルナンデス特任准教授、同 吾郷浩樹 主幹教授、名古屋大学 大学院工学研究科の高橋康史 教授、東北大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の加藤俊顕 准教授、筑波大学 数理物質系の岡田晋 教授、大阪大学 産業科学研究所の末永和知 教授、産業技術総合研究所(産総研)の林永昌主任研究員、京都大学(京大) エネルギー理工学研究所の松田一成 教授、熊本大学 大学院先端科学研究部の原正大 准教授らの研究グループによるもの。詳細は1月9日付で米国科学振興協会発行の学術誌 「Science Advances」にオンライン掲載された。
MoS2をはじめとする、遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)と呼ばれる二次元の半導体シートは、次世代半導体材料候補として世界中の半導体メーカーなどで研究開発が進められているほか、安価のため、白金に変わる水素発生反応(HER)の触媒として期待されているものの、TMDのデバイスへの応用には微細加工技術や大量生産などの解決すべき課題が多く残されている。
そうした課題の解決に向けた今回の研究では、原子の並びが向きによって異なる(異方的な)表面原子配列を有するサファイア基板のa面を用い、かつ合成条件を詳細に検討することで、一方向に配列した高密度のMoS2ナノリボンをCVDを用いて合成することに成功したという。
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて確認したところ、サファイア基板上に数十nmから数百nmの幅をもつMoS2ナノリボンが特定の方向にきれいに向きを揃えて高密度に成長していることが確認されたとするほか、高さ測定や分光測定などから、単層MoS2(S-Mo-Sの原子3個分の厚み)であることも確認したという。また、原子分解能の走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いた観察からは、欠陥がほとんどなく、単結晶のMoS2構造をもっていることが確認されたほか、そのエッジも比較的なめらかであることが確認されたという。
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(a)はサファイア基板上に配向成長したMoS2ナノリボンのイメージ。(b)は配向MoS2の電子顕微鏡写真。黒く見える線がMoS2ナノリボン。(c)はMoS2ナノリボンの高分解電子顕微鏡像とそのモデル図。明るく見える点がMo原子に相当 (出所:九大)
さらに、配向したMoS2ナノリボンを導電性のグラファイト基板の上に転写し、電気化学的な触媒活性を測定したところ、MoS2ナノリボンのエッジの触媒活性がナノリボンの中心部に対して100倍近く高いことが確認されたほか、細いリボンではエッジ/面積比が大きく、単位面積当たりのHER活性が高いことが確認されたとする。
加えて、半導体材料としての特性調査のために、サファイアa面からシリコン基板に転写した後、線幅110nmのMoS2ナノリボンを半導体チャネルとしたトランジスタ構造を自己組織的に作製し、電気特性評価を行ったところ、明瞭なトランジスタ動作が観察できたとするほか、電子移動度も44cm2/Vsと、通常のMoS2シートと同等かそれ以上の高い値を得ることができたという。
なお研究グループでは、MoS2に加えて、二硫化タングステン(WS2)でもナノリボンを作るとともに、MoS2の周囲にWS2を合成したヘテロ構造ナノリボンの合成にも成功しており、今後は今回考案された手法を活用する形で位置と方向を同時に制御したナノリボンを合成して集積化を目指すとともに、複数のナノリボンを組み合わせたヘテロナノリボンなどのユニークな構造体を作製し、新たな物性開発や応用へとつなげていきたいとしている。