化石燃料に頼らないエネルギー源を求めるメーカーや消費者の動きにより、多くの分野で電化が普及しています。これは有害な地球温暖化を招く汚染を制限する環境保護にとって重要な一歩です。電気自動車(EV)が世界的に普及するにつれ、産業界では次の課題として、商用車および農業用車両(CAV)の電気推進への転換に注目が集まっています。

しかし、この変化により、電力エネルギーの需要が急激に増加し、送電網に極度の圧力がかかっています。効率的ではあっても、EV、データセンター、ヒートポンプなどのアプリケーションには、稼働時に大量のエネルギーが必要です。

新たな再生可能エネルギー源が注目を集めており、太陽光発電は風力発電や波力発電などと並んで最も一般的な形態の1つです。アプリケーションは、再生可能エネルギー源からのエネルギーを使用する場合にのみ、真に「クリーン」であるとみなすことができます。

太陽エネルギー市場は長い歴史を持ち、比較的成熟しています。Fortune Business Insightsの報告書によると、現在、この市場の規模は2730億ドルと推定され、2032年までに4360億ドルに成長すると予測されています。2023年には、北米における太陽エネルギー市場のシェアは40%を超えました。

再生可能エネルギー利用における電力変換の課題

太陽エネルギーによる発電量は急速に増加しています。2022年には、この方法で発電された電力は1300TWhに達し、前年比で26%増加しました(IEAによる)。注目すべきは、この時点で太陽光が風力発電を上回り、再生可能電力の最大の供給源となったことです。

太陽光発電(PV)パネルは直流(DC)を生成しますが、送電網は交流(AC)を必要とするため、セントラルPVインバータは、大規模な送電網に接続された設備に不可欠な要素です。PVパネルで発電された全エネルギーがインバータを通過するため、インバータの効率が最も重要なパラメータの1つです。太陽エネルギーは無限と言えますが、変換効率が悪いと送電網に届くエネルギーが制限されてしまいます。その結果、浪費されたエネルギーで熱が発生しますが、多くの太陽光発電設備は、周囲温度が高い晴天の多い地域/砂漠に設置されていることから、この発熱が大きな問題になります。

コストは消費者への電気料金や電力会社の収益性に影響を与えるため、重要な考慮事項です。必要な高電力を考慮して、多くのセントラルインバータが複数の変換モジュールを並列に使用しており、必要数は個々のモジュールの定格電力によって決まります。各モジュールの電力容量が増えると、必要なモジュール数が減りコストが低下します。

EVでは大きな進歩がありましたが、CAVの電気推進への移行はそれほど進んでいません。しかし、CAVは車両総数のわずか2%であるにもかかわらず、輸送部門からの温室効果ガス排出量の28%を占めています。CAVの車両はサイズが大きいので、1回の走行で消費する燃料が多く、排出ガスも多くなります。特に商用乗用車(バスなど)でいくらか前進がありましたが、大型トラック、建設機械、農業用車両(トラクターなど)の大部分は依然としてディーゼルエンジンで駆動されています。ここにきて、状況は変わり始めています。欧州連合、中国、カリフォルニア州などのグローバル市場における厳しいゼロエミッション規制に適合するために、電気トラック(バッテリー式およびハイブリッド)の販売台数は、現在の総販売台数の5%から、2030年までに40%~50%に増加すると予測されています。

電気商用車は、化石燃料車よりも可動部品が少なく構造が簡単です。これにより(同一積載量であれば)小型化が可能であり、信頼性が向上し、メンテナンスに要する費用も削減できます。バッテリーコストが大幅に低下したことを考慮すると、電気CAVの総所有コストは内燃機関(ICE)よりも低くなると報告されています。

各車両が走行するためにバッテリーに蓄えられるエネルギーは有限なので、太陽光発電アプリケーションと同様、電気CAVにとっても効率が重要な要件です。インバータ内の変換プロセスの効率が高いほど航続距離は長くなります(すなわち、ある距離を走行するに必要なバッテリーが小型になる)。

将来的に太陽エネルギーと電動CAVに依存すると考えた場合、信頼性が重要であることは言うまでもありません。

インバータアプリケーション向けの高度な電力技術

3相ソーラーPVインバータなどの高電力アプリケーションで使用される一般的なトポロジの1つが、3レベルアクティブ中性点クランプ(ANPC)コンバータです。このマルチレベルトポロジは、特に性能と効率の向上を目的としています。

通常の中性点クランプ(NPC)コンバータは、ダイオードを使用してDCリンクコンデンサの中性点を出力に接続しています。ANPC構成(図1)では、スイッチでクランピングを行うため、スイッチング損失を低減し、効率を向上させるための適切な制御が可能になります。これにより、必要な熱対策が緩和され、より小型で低コストのソリューションが実現します。

トポロジの配置により、個々のスイッチにかかる電圧ストレスが軽減され、信頼性が向上します。さらに、ANPCは送電網に有用な最適化された波形を供給します。

  • モジュール使用によるANPCコンバータの容易な構築

    図1. モジュール使用によるANPCコンバータの容易な構築

設計エンジニアは、オンセミのQDual 3 IGBTモジュールなどのパワーモジュールを使用し、複数のパワーモジュールを並列に接続して、システム出力電力が1.6MW~1.8MWの高性能3レベルアクティブ中性点クランプモジュールを構築できます。

  • QDual3 IGBTモジュール

    図2. QDual3 IGBTモジュール

QDual3モジュールは、最新の1200V Field Stop 7(FS7) IGBTおよびダイオード技術を統合しており、高電力アプリケーションで高いレベルの性能を発揮します。FS7技術は、前世代の技術と比較して導通損失が改善されています。

  • FS7技術による主要性能パラメータの向上

    図3. FS7技術による主要性能パラメータの向上

FS7 IGBTプロセスでは、トレンチの狭いメサによって低VCE(SAT)と高電力密度を実現し、プロトン注入マルチバッファによって堅牢でソフトなスイッチング特性を達成しています(図1)。 オンセミの中速FS7デバイスは、モーションコントロール・アプリケーション向けに最低VCE(SAT)(1.65V)を提供し、FS7高速製品は57μJ/Aの最低EOFFを実現しており、これらのデバイスはソーラーインバータやCAVなどの高電力アプリケーションに最適です。

  • FS7 IGBTによる小型・高電力密度の実現

    図4. FS7 IGBTによる小型・高電力密度の実現

FS7技術により、最新のQDual3モジュールのチップサイズは前世代に比べて30%縮小されています(図3)。この小型化は、高度なパッケージング強化と相まって、最大定格電流の増加に役立ちます。動作温度が最大150℃のモータ制御アプリケーションでは、QDual3は市場で現在入手可能な他の製品と比較して、100kW~340kWまで約12%高い出力電力を実現します。

太陽光発電およびCAVアプリケーションでは信頼性が鍵になるので、モジュールの構築方法とテスト方法が何よりも重要です。例えば、 オンセミのモジュールは、多くの競合ソリューションで使用されているワイヤボンディングの代わりに、端子の取り付けに超音波溶接を使用しています。これにより、通電能力が向上し、熱経路が改善されてワイヤボンディングよりも堅牢になります(図5)。

  • 超音波溶接による温度低下と信頼性向上

    図5. 超音波溶接による温度低下と信頼性向上

この方法に伴う導電性の向上で電気的損失が減少し、それによって効率が向上します。加えて、動作温度が低下し、機械的剛性の増加と合わせて、モジュールの全体的な信頼性が向上します。

高電力QDual3技術

アプリケーションに特化したQDual 3ハーフブリッジIGBTモジュール(セントラルソーラーインバータ、ESS、UPS用「NXH800H120L7QDSG」およびCAV用「SNXH800H120L7QDSG」)は、VCE(SAT)とEOFFの改善により損失を低減し、効率を向上させるFS7技術をベースにしています。

現在、ANPC/INPC構造の600A IGBTモジュールを使用して1.725MWのインバータ設計を完成させるには、合計36個のモジュールが必要です。しかし、新しいNXH800H120L7QDSGおよびSNXH800H120L7QDSGは、800A動作に対応しているため、必要なモジュール数を9個削減できます。これはサイズ、重量、コストが25%削減されることを意味し、太陽光発電アプリケーションで有益ですが、重量の軽減と効率の向上により車両航続距離が延びるCAVでも価値があります。

  • 電流容量の増加により少数モジュールでのシステム構築が可能

    図6. 電流容量の増加により少数モジュールでのシステム構築が可能

これらのモジュールは、熱管理用の絶縁ベースプレートとNTCサーミスタを内蔵しています。はんだ付け可能なピンでPCBへの直接実装が可能であり、また業界標準のレイアウトで構成されているため、既存の設計を最新のQDual3技術に容易にアップグレードできます。

すべてのQDual3モジュールは、市場の他のデバイスを上回るオンセミの厳格な信頼性試験が実施されます。湿度試験は960Vバイアスで2000時間、その他の試験は80Vで1000時間実施されます。振動試験(CAVアプリケーションに必須)は、AQG324に適合するために、30Gピーク/10G RMSで22時間実施されます。その他のデバイスは、最低5Gの振動レベルで1時間以上実施されます。

まとめ

世界が再生可能エネルギーの利用拡大に向かう中、送電網はかつてないほどの圧力に晒されています。太陽光発電は今や成熟期を迎えており、2022年には風力を上回り、再生可能電力の主要な供給源となっています。

化石燃料を動力源とする自動車が依然として重大な汚染源である中で、CAVの電動化は初期段階でも徐々に勢いを増しています。

オンセミのFS7などの新しい半導体技術により、これらの分野における効率と信頼性のニーズを満たす低損失・高電力デバイスの開発が可能です。この技術に基づいて、オンセミの新しいQDual3デバイスは、コンパクトなパッケージで高電力密度と高効率を提供します。溶接端子と業界トップクラスの認定試験により、堅牢性が保証されます。

最新世代のNXH800H120L7QDSGおよびSNXH800H120L7QDSGでは、モジュールあたりの電流容量が800Aに増加したことにより、インバータの設計に必要なモジュール数が25%削減されています。その結果、以前よりも小型、軽量、低コストの簡素な設計が可能になりました。これは大きな一歩ですが、太陽光発電産業とCAVメーカーの需要は今後も増加を続けるでしょう。FS7技術の高性能ポテンシャルを継承し、さらに基準を引き上げる後続モジュールの登場が期待されます。

本記事Power Systems Designが「NETWORK Computing」に寄稿した記事「IGBT Modules Deliver Efficiency in Inverter Applications」を翻訳・改編したものとなります