東京大学(東大)、理化学研究所(理研)、筑波大学、大阪大学(阪大)、京都大学(京大)の5者は12月25日、新開発の「二重荷電交換反応」を用いることで、カルシウムの放射性同位体「48Ca」中の1個の中性子が1個の陽子に変換される「ガモフ・テラー遷移」が2連続で起こったことを同定し、ニュートリノを伴わない「二重ベータ崩壊」に関わる原子核応答を知るための手がかりになる可能性がある、原子核の新しい励起モード「二重ガモフ・テラー巨大共鳴」(以下、「DGTGR」と省略)の候補を発見したと共同で発表した。
同成果は、東大大学院 理学系研究科 附属原子核科学研究センターの阪上朱音教務補佐員、同・矢向謙太郎准教授、理研 仁科加速器科学研究センター 核反応研究部の上坂友洋部長、阪大 核物理研究センターの大田晋輔准教授、京大大学院 理学研究科の銭廣十三准教授、筑波大学 計算科学研究センターの清水則孝准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本物理学会が刊行する理論物理と実験物理を扱う欧文学術誌「Progress of Theoretical and Experimental Physics」に掲載された。
ベータ崩壊は、弱い力で起きる原子核の放射性崩壊で、具体的には中性子がβ線(電子)やニュートリノを放射して陽子に変化する現象だ。同崩壊は、スピンの変化を伴わない「フェルミ遷移」と、スピンの変化を伴う「ガモフ・テラー遷移」に大別され、後者が2連続で起こる過程の1つが二重ベータ崩壊だ。もしニュートリノが粒子・反粒子の区別がない「マヨラナ粒子」であるのなら、二重ベータ崩壊で放出された同素粒子が対消滅する「ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊」が起こり得るが、実験的には未確認である。
二重ベータ崩壊が起きる核種は11種あるが、その崩壊は宇宙の年齢すら一瞬に感じられるほどの1000京年以上というとてつもない寿命で起こるという。しかしこのことこそが、二重ベータ崩壊が非常に弱い二重ガモフ・テラー遷移であるということを表しているとする。
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二重ガモフ・テラー巨大共鳴のイメージ。二重ベータ崩壊する48Ca原子核は、自然界ではそれがゆっくりと起き、48Tiに変化する。原子核ビームを用いて48Ca原子核にエネルギーを与えると、ガモフ・テラー巨大共鳴や二重ガモフ・テラー巨大共鳴(未発見)が現れる(出所:共同プレスリリースPDF)
陽子と中性子は電荷の有無という違いはあるが、質量や核力(強い力)の働きがほぼ同じことから、1つの核子のスピンが異なる状態とする考え方のもとに導入されたのが、量子数「アイソスピン」だ。同スピンが上向きなら中性子、下向きなら陽子と表される(同スピンの変化で陽子と中性子は入れ替われる)。
原子核に高いエネルギーを与えると、その中の陽子・中性子が一斉に高い周波数で振動するモード(巨大共鳴)が現れる。スピン・アイソスピンが二単位ずつ変化する二重ガモフ・テラー遷移が引き起こすDGTGRは、二重ベータ崩壊と類似の遷移とされる。二重ベータ崩壊は遷移確率が非常に小さく、原子核の遷移の起こりやすさを示す遷移強度は極めて微かだ。それに対してDGTGRは、約1万倍もの遷移強度を持つと予想されている。ところが、30年以上の時間をかけても、これもまた未確認だった。そこで研究チームは今回、炭素12ビームを用いた二重荷電交換反応(12C,12Be(0+2))を用いることで、高励起エネルギー領域における二重ガモフ・テラー遷移を観測する手法を開発し、実験を行ったとする。
二重荷電交換反応は、従来の反応より高効率で二重ガモフ・テラー遷移を起こせると期待される。また、終状態であるベリリウムの中性子過剰核「12Be(0+2)」が電子・陽電子対を放出して崩壊することを利用して、陽電子が対消滅した際に放出されるガンマ線を検出することで、同遷移を選択的に捉えることができるという特徴を持つ。そこで今回の研究では、48Caから中間状態のスカンジウムの放射性同位体「48Sc」を経て、終状態のチタンの安定同位体「48Ti」に遷移する反応の反応率(二重微分断面積)が観測された。
その結果導き出された二重ガモフ・テラー遷移強度を、終状態核48Tiにおける励起エネルギーに対してプロットしたところ、予言された励起エネルギー領域に遷移強度が観測されたという。つまり、DGTGR候補が初めて観測されたといえるとした。ただし、本当に二重ガモフ・テラー遷移が大きく抑制されるのか、また34MeV以上の領域に観測された理論予想と合わない構造は何なのか、今後、さらに統計量を高めた実験や、詳しい反応理論を用いた研究によって、解明していく必要があるとした。
最近、DGTGRと二重ベータ崩壊の類似性に着目した理論研究が行われ、DGTGRの観測量を用いて、二重ベータ崩壊の起こりやすさがよく理解できることが指摘されていたとする。特に、共鳴の中心エネルギーや遷移強度の情報から、現在理論計算の不定性が問題となっているニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊の核行列要素の値に対し、制限を与えられると期待されており、今回の研究成果が、二重ベータ崩壊の研究にも役立つことを期待するとしている。