TSMCおよびSamsung Electronicsとそれぞれ個別にアラブ首長国連邦(UAE)が、半導体工場建設に協議している模様だと米国の経済紙Wall Street Journalが9月22日付で報じている

それによると、複数の関係者からの話として、TSMCの経営陣やSamsungの経営幹部がUAEを訪問し、それぞれ別個に工場建設の可能性を話し合ったという。ただし、いずれもまだ初期段階の協議で、技術面などの課題から実現しない可能性があるとされるが、アブダビ首長国に拠点を置く政府系ファンドMubadala Investmentが中心的な役割を果たす形でUAEが各社に200億ドル以上の建設資金を提供するという。

Mubadalaの広報担当者は、AI投資などを担うアブダビの技術分野専門投資会社MGX(Mubadalaの投資パートナー)が半導体製造を戦略の1つとして位置付けており、パートナーとの定期的な対話を行っているとしつつ、UAEでの半導体工場建設の具体的な計画はないと述べたという。

この報道に対して、TSMCはオープンな議論を歓迎する姿勢を示しつつも、現状は既存の工場建設プロジェクト(米日独)に注力しているため、新たな海外投資の具体的な計画はないとする声明を出したと台湾中央通信が伝えている

半導体製造には豊富な電気と水が必要だが、UAEは電気代は石油資源のおかげできわめて安く調達できる一方、水の確保は難しいと見られ、UAE側は海水を真水に精製することで対応すると説明したという。

UAEが半導体製造に乗り出す背景

UAEが、国が資金を負担してでも半導体工場の誘致を進めようとしている背景には、先端技術分野の強化に加え、世界的なAIブームの需要を満たそうという狙いがあると見られている。「中東のAI中心地」を目指し、2017年には「UAE国家AI戦略2031」を打ち出し、2031年にグローバルAIリーダー国になることを掲げている。UAEの国営AI企業G42が米Cerebrasと協業しているほか、MGXはBlackRockやMicrosoftとともに最大1000億ドルとも言われる資金調達を行い、AIインフラに投資する計画を結んでおり、ハード、ソフト両面でAIをカバーしようとしているように見える。

ちなみにMubadala InvestmentはGlobalFoundries(GF)のオーナーとしても知られており、GF発足当時は、将来的なアブダビ空港隣接地への半導体工場建設計画などが話題になっていたが、現在までにその噂は消えている。

台湾での生産能力拡充を優先するTSMC

TSMCは8月、台湾南部科学園区にあるInnoluxの第4工場を購入することを発表。2025年上半期よりAI半導体向けに先端パッケージングの1種である「CoWoS」の生産を開始する予定だと、台湾経済誌の經濟日報が報じている。現在、急ピッチで立ち上げが進められており、2025年の春節ころにクリーンルームが完成すると見られている。

また、TSMCは台湾南部の南科楠梓園区に2nmプロセスの量産工場建設を3棟計画しており、1棟目が2025年第1四半期、2棟目が同第3四半期の稼働を予定しているほか、関係者の話によると、3棟目も今月着工する見込みだと いう。さらに1.4nm向けファブも高雄に建設する可能性が取りざたされるなど、先端プロセスは台湾を重視という同社のスタンスに変更はない模様である。