日傘は男性向け市場も拡大 SNSやリアルでタッチポイント創出【洋傘メーカーのEC動向<日傘・晴雨兼用傘編>】

男性にも広がっている日傘。猛暑が続く今シーズンは販売に力を入れる通販・EC企業が増えている。「日傘」の検索でウェブから得られる情報は均一的だが、ECサイトも手掛ける洋傘メーカーの製品には機能性やこだわりが詰まっている。

自社製品の特徴をより伝えるため、SNSの活用や小売店での施策に力を入れ、顧客とのタッチポイントを創出している事例も目立ってきた。低価格を売り物にした日傘も多くある中、こだわりの詰まった良質な傘を届ける各社の動向をまとめた。

<日傘市場の拡大余地は大きい>

多くのメーカーが自社製品の特徴について、「遮光・遮熱率99.9%以上」と説明し、雨傘としても使える晴雨兼用傘が主流となっている。近年はシンプルなデザインで、カラーはベーシックやパステル系の人気が高まり、各社もこのニーズに応えているようだ。

傘の機能性、こだわりに目を向けてもらうため、SNSを活用して情報を拡散しているほか、百貨店などの売り場でも手にしてもらう施策に取り組むメーカーも増えてきた。一方的に特徴を伝えるのではなく、顧客とコミュニケーションを図りながら、ECでの売り上げにもつなげているようだ。

潜在顧客へのアプローチも進める。メーカーの1社によると「日常的に日傘を使用しているのは女性で2人に1人、男性は100人に1人程度。市場拡大の余白はある」と期待を寄せる。

日傘を手にしてもらい、顧客との接点を増やしていかに製品のファンになってもらえるか、各社の取り組みが進む。

<シューズセレクション、直営店・EC限定品も 今年はクラファンなど展開>

「Water Front」のブランド名で、洋傘を製造・販売するシューズセレクションは、ドラッグストアやコンビニの販売ルートのほか、オンライン限定商品を販売している。安価でも長く使える傘としてユーザーに支持されている。

2022年に販売を開始した晴雨兼用傘「COKAGE+」は、直営店舗とオンライン限定だ。遮熱遮光生地「東レ サマーシールドⅡ」を傘生地に採用。同様の生地を使用した商品が1万円以上する中で、販売価格を7000円台に抑え、購買層の拡大を目指した。人に贈りたいと思わせる、丸みのあるフォルムに仕上げたという。

今年は機能性の発信と認知力の向上に注力した。クラウドファンディングで新商品のマーケティングを図ったり、アフィリエイターやインフルエンサーから機能性の高さを発信してもらったりした。

ジャンプタイプやファッションに馴染むカラーなど、ラインアップの拡充も行った。執行役員CSO・今井啓太氏は「頼れる1本に出会えていない方に」とすすめている。

▲「COKAGE+」を持つ執行役員CSO 今井啓太氏

直営店舗での購入者のリピート率は15~20%としている。2024年5月度の「楽天ショップ・オブ・ザ・マンス」ではバッグ・小物・ブランド雑貨ジャンル賞を受賞している。

<オーロラ、「東レ サマーシールド」を使用 SNSで評判、EC限定品は完売に>

洋傘などを製造販売するオーロラは、2011年から販売している「東レ サマーシールド」を使用した晴雨兼用傘が人気だ。百貨店の売り場で商品を求める人も多くいるということで、口コミも広がり、年間で10万本の販売実績を上げている。

「東レ サマーシールド」は、11年に同社と東レが共同開発した遮光遮熱生地。ニーズに合わせて、麻などの天然素材を混ぜたものや軽量化を進めたものなど改良を重ねている。

SNSでは今年、「日傘なら東レ サマーシールドが一番」という内容の投稿が広まり、オンラインショップ限定の商品は一時的に完売状態となった。ウェブ上のオーガニック検索も増えているようだ。

▲オンライン限定商品を手にする商品統括部ブランドマーケティング 第二部 田所秀明部長

オンラインショップ限定商品は、百貨店に卸している商品と同等のクオリティーで、流通にかかる費用を引いた分、携帯用の傘袋を付け、男女ともに使いやすいシンプルなデザインで展開している。

同社は創業128年。国内で唯一、傘の組み立て一貫工場を保有している。

<ワールドパーティー、商品画像や特集で訴求 男性用日傘は累計100万本販売>

ワールドパーティーは、ECサイトの商品画像や特集企画といった「見せ方」に注力している。プロモーション施策も奏功し、男性用日傘ブランドは2024年7月末時点でシリーズ累計販売数100万本を突破した。

同社の商品は、機能性やデザイン性が強みとなっている。ECサイトでは、日傘のメリットなどを紹介する特集記事や、ファッションアイテムとして提案する商品写真を公開している。

男性用日傘ブランド「Wpc. IZA(ダブリュピーシーイーザ)」では、ビジュアルモデルとして俳優の岡田将生を起用した。「YouTube」やSNSを中心に、動画を活用したプロモーションを展開している。

▲ビジュアルモデルに岡田将生を起用

2024年5~9月は気象会社のウェザーマップと協業し、国内の気象データをもとに、日傘指数(日傘が必要な度合い)を予報する特設サイトを開設した。クールビズの手段として日傘を提案し、ECサイトへの流入を促進している。

女性用日傘ブランド「UVO(ウーボ)」については、「ECの担当者も商品企画に携わり、ECサイトの導線設計にもこだわった。特にSNSでの反響が大きい」(広報担当者)と話した。

<柴田、独自性高い1本を提供 インスタからECに流入も>

洋傘の製造・販売を行う柴田は、デザインがユニークで高品質な傘を、消費者に提供している。

色の付いた傘骨や、ぬい目がない1枚生地の傘など「誰ともかぶらない1本」がコンセプトだ。

インスタグラムでは、購入者が写真や動画で、気に入ったポイントを自発的に紹介しているという。この投稿から自社ECサイトに顧客が流入している。

同社はメーカーの製造を請け負っていた洋傘製造企業で、新型コロナの影響で百貨店が休業したことを機に、2020年からオリジナル商品の開発にも乗り出した。日傘づくりから製造をスタートし、レースの柄合わせなどの加工を強みとしている。傘骨を一度解体してから手塗りして色を付けるなど、他社がやらないような細かい作業も手掛ける。傘職人による修理対応もしている。

▲「Europa Italy ジオメトリック柄」をさす柴田成俊社長

「こだわって選んだ傘なら、電車内に置き忘れることもなくなるだろうし、大切に扱うだろう。特殊な傘を求める柴田の傘のファンを増やしていきたい」(柴田成俊社長)と話す。

<ムーンバット、婦人売り場に紳士傘も 5万円など幅広く商品訴求>

洋傘や帽子などを企画・販売するムーンバットは近年、男性が日傘に手を伸ばしやすくなるよう、主要卸先である百貨店の婦人物売り場に、あえて男性も使えるようなデザインやサイズの傘を並べている。

日傘の利用に抵抗感のある男性に使ってもらうには、一緒にいる女性からの後押しが効果的とみる。夫婦が共用でも使えるような商品が入り口になるとみて、婦人物売り場に男女兼用傘を陳列している。

▲「バーブレラ サンプロテクト」シリーズを持つ事業本部百貨店事業部 洋傘チームパラソルグループリーダー 窪田淳之氏

同社が展開する傘の販売価格は1000円台から5万円台と幅広い。傘を求める人、全てをターゲットにしている。安価な商品で試してから、機能性の高い傘などで探すことができる。

同社は100年以上前から傘を作ってきた歴史を持つ。

傘づくりの長い実績と、売り場から得られる消費者の声を開発に生かし、画期的な商品を生み出している。

<ニフティカラーズ、晴雨傘を秋冬使用も提案、ファッション感覚で商品選び>

洋傘などレイングッズを販売するニフティカラーズは2024年に、晴雨兼用傘の新ブランド「SORANI.(ソラニ)」を立ち上げ、春夏だけでなく通年で使いやすいアイテムとして、秋冬も販売を促進していく。

ファッションに影響しにくいシンプルなデザインと、コンパクトなものから60センチと大きなサイズ展開が「ソラニ」ブランドの特徴だ。

鏡の前で服を合わせるような感覚で見比べてもらおうと、インフルエンサーによるインスタグラムのリール投稿などを始めた。機能性を説明するほかに、広げた時のデザインやパーソナルカラーとの相性が分かるような内容になっている。

▲「SORANI.」シリーズを持つ営業部 久保田睦央課長

「秋ごろや曇りの日でも紫外線の影響を受ける。晴雨兼用なので、引き続き使ってほしい」(営業部 久保田睦央課長)と話している。