昨今、 プライバシーを保護するため、ユーザーが訪れたWebサイトとは異なるドメインから発行されるサードパーティーCookieに対する規制が厳しくなっている。そのため、サードパーティーCookieを利用したWeb広告の配信や効果測定が難しくなっているが、企業では他社のデータを活用の必要性が高まっている。

そこで、企業がプライバシーを確保しつつ、データ活用を進めるための手として、データクリーンルームが注目を集めている。データクリーンルームとは、プライバシーに配慮した安全な環境で、パートナー企業が保有する顧客データの分析ができるクラウド環境を指す。

これまでに、ヤフーSnowflakeがデータクリーンルームの提供を開始しているが、今年8月にNTTドコモがデータクリーンルームの提供を始めた。

そして、NTTドコモはこのほど、データクリーンルームに関する説明会を開催した。同社のデータクリーンルームはどのような特徴を備えているのだろうか。

ドコモのマーケティングソリューションの戦略

「ドコモ データクリーンルーム」は、同社のマーケティングソリューションに位置づけられる。コンシューマサービスカンパニー マーケティングイノベーション部 CXマーケティングPF推進担当 担当部長 古市実氏は、「当社は、マーケティングイノベーション支援を起点に 社会・産業の構造改革と新たなライフスタイルの創出をリードすることを目指している」と語った。

  • NTTドコモ コンシューマサービスカンパニー マーケティングイノベーション部 CXマーケティングPF推進担当 担当部長 古市実氏

同社のマーケティング領域におけるコアアセットは、dポイントクラブの会員・顧客基盤、幅広いパートナー、サービス基盤を構成するテクノロジーとなる。古市氏は、特徴的なテクノロジーとして、独自の顧客理解/拡張推計エンジン「docomoSense」を紹介した。

「docomoSense」は、位置情報など、同社ならではの行動データを横断的に解析することで顧客理解を深め、顧客1人ひとりに最適なサービス・情報を提供する。

また、マーケティングソリューションの事業戦略としては、顧客基盤・データ、パートナーデータを活用し、「シングルID×フルファネル」でのソリューション提供により企業のマーケティングDXを支援することを掲げている。

  • NTTドコモのマーケティングソリューション事業戦略の全体スコープ

「ドコモ データクリーンルーム」の特徴

データクリーンルームにおいては、データの中身を見ることはできず、条件下でのクエリを実行することによって、アウトプットを出せる。「ドコモ データクリーンルーム」は、ドコモおよびインテージが保有するデータを活用して、ユーザーが顧客データを分析することができる。その際、ドコモデータ、ユーザーが保有するデータは相互に確認できない。

具体的には、ドコモが保有する1億を超えるdポイントクラブ会員の属性情報や位置情報などのデータ(以下、ドコモデータ)や、インテージおよびインテージ子会社が保有する消費者の購買行動分析に強みを持つ「SCI」や「買いログ(CODE)」などの各種データ(以下、インテージデータ)のうち、顧客から必要な同意を得られているデータを活用できる。

サービスに搭載されるドコモデータは個人識別性のない個人関連情報のみ。データを掛け合わせる際は、キーとして広告識別子や規定の方法でハッシュ化されたメールアドレスを利用できる。アウトプットは匿名化技術が採用された統計情報のみとなる。

  • 「ドコモ データクリーンルーム」のサービス提供のイメージ

ドコモ データクリーンルームの提供主体は、ドコモ・インサイトマーケティングだ。ドコモが保有している個人情報を個人識別不可能な状態に加工し、ドコモ・インサイトマーケティングに第三者提供することで、個人関連情報として整理して、プライバシーを確保している。

ドコモ・インサイトマーケティング 取締役 データプラットフォーム戦略部長・蓜島俊一氏は、「企業がファーストデータを持っているが、データが足りないから自社顧客の分析が十分ではない。ドコモ データクリーンルームを活用することで、 新商品の開発や需要予測までできる」と述べた。

  • ドコモ・インサイトマーケティング 取締役 データプラットフォーム戦略部長 蓜島俊一氏

さらに、蓜島氏は「データクリーンルームは自体は目新しくない」と述べた上で、同サービスの特徴として、以下を挙げた。

  • ドコモデータとインテージの強みを提供できる
  • 顧客が自社データを外部に提供する必要がない
  • 幅広いマーケティングの用途に利用できる

ドコモ×インテージの協業によるメリット

「ドコモ データクリーンルーム」の特徴の一つが、インテージとの協業による提供だ。インテージと協業することで、バリューチェーン全体のトータル支援を行う。加えて、両社の強みを生かすことで、CXを起点としバリューチェーンを一気通貫で支援する統合型のマーケティングソリューションサービスを展開する。

短期的には、「日用消費財メーカー」「流通小売企業」「幅広い業種の企業」「耐久消費財メーカーサービス企業」「ヘルスケア領域」において、両社のアセットを活用した新規事業を立ち上げることが計画されている。

蓜島氏は、「ドコモデータの強みは、シングルIDでユーザーの行動を切れ目なく把握できること。ここにインテージのデータを掛け合わせると価値が高まる。そして、ドコモ単独では難しかった高度な支援が可能になる」と語った。

なお、データが足りない場合は、docomoSenseを活用して、マーケティングで利用可能なデータに変換するという。