岐阜大学と新潟大学は7月30日、モルモットの内耳に対し、本来動物が聞くことができない高い周波数を持つ超音波を与えると、可聴域の上限付近の高い周波数の音を受け取る場所である「フック部」の有毛細胞が超音波に同期して超高速で振動・活性化することを確認したことを発表した。

同成果は、岐阜大大学院 医学系研究科 生命原理学講座 生体物理・生理学分野/高等研究院 One Medicine トランスレーショナルリサーチセンター 先端医療機器開発部門の任書晃教授、新大 自然科学系(工学部)の崔森悦准教授ら共同の研究チームによるもの。詳細は、米国科学アカデミー紀要「PNAS」の姉妹誌で科学の幅広い分野を扱う学術誌「PNAS Nexus」に掲載された。

  • 超音波検出時のフック部有毛細胞の動作原理と新しい可聴域

    超音波検出時のフック部有毛細胞の動作原理と新しい可聴域(出所:共同プレスリリースPDF)

ヒトの聴覚は、空気の振動を音として認識するための感覚器官で、空気の振動で鼓膜が振るわされると、中耳から内耳へと伝えられ、蝸牛のリンパ液を振動させ、それが蝸牛内の基底膜にある「有毛細胞」によって電気信号へと変換され、脳へと届けられる。

ヒトの聴覚が捉えられる範囲は、個人差はあるが、下限が20Hz程度、上限は1万5000~2万Hz(20kHz)程度とされる。20kHz以上のヒトの耳では捉えられない音は超音波と呼ばれ、イヌは超音波の領域の音でも聞き取れることはよく知られている。また、イルカやコウモリなど、エコーロケーションを用いる動物たちも超音波を利用し、周囲の環境や獲物の位置などを捉えていることがわかっている。

可聴域の上限を超えているため、当然ながらヒトはまったく超音波を聴けないと思われているが、実はそうではない。ヒトでも骨を介した音刺激を用いれば、超音波を聴くことが可能だ。この現象は「超音波聴覚」と呼ばれており、その発見以来、75年以上にわたって研究されているが、その仕組みは未解明だという。これまで想定されてきた仕組みとしては、超音波が聴覚に関する神経を刺激するとする説や、骨により超音波が可聴音へと変調する説などがある。しかし、どれも決定的な証拠はなかったとする。そこで研究チームは今回、全身麻酔をかけたモルモットに可聴域を超える超音波を与え、神経の興奮と有毛細胞の電流を測定することにしたという。

通常、側頭骨を介した音刺激でのみ非可聴域の超音波が知覚されるが、実験の結果、中耳の骨「耳小骨」に直接超音波刺激を加えると、超音波を知覚できることが確認された。つまり、蝸牛は本来超音波を受容できることが明らかにされたのである。

次に、先端光学計測装置である光干渉断層撮影装置を活用して、音が有毛細胞に引き起こす1000億分の1センチの振動をフック部で測定することにしたという。なおフック部とは、可聴域の上限付近の高い周波数の音を受け取る領域のことである。振動の解析が行われたところ、有毛細胞は通常受容する可聴域の周波数に加え、その2倍、3倍の周波数(高調波)に応答していることが判明。この応答が、可聴域を超える超音波の感知を可能にするとした。

今回の研究成果により、超音波聴覚が有毛細胞機能を反映することが解明された。今後、難聴の早期診断や新しい補聴方法の開発などにつながる可能性があるとしている。