京都工芸繊維大学(京工繊)、長岡技術科学大学(長岡技科大)、東京大学(東大)の3者は5月29日、歩行者集団の行動実験において、個々の足並みがバラバラな方が頑健な集団的パターンを形成することを確認したと発表した。
同成果は、京工繊 情報工学・人間科学系の都丸武宜特任研究員、長岡技科大 技学研究院 情報・経営システム系の西山雄大准教授、東大大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻のフェリシャーニ・クラウディオ特任准教授、京工繊 情報工学・人間科学系の村上久助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立協会が刊行する物理科学と生命科学の境界に関する全般を扱う学術誌「Journal of the Royal Society Interface」に掲載された。
自然発生する集団的な振る舞いの1つとして、横断歩道で対面歩行者の集団がすれ違う際に、自然といくつかの列に分かれる「レーン形成現象」がある。マスゲームや入場行進のように、全体を統制する計画や指揮者は存在しないにも関わらず、個々の歩行者が近くにいる他の歩行者と局所的に相互作用することで、秩序だった円滑な流れが集団全体を通して自己組織化(個体間の相互作用から、集団全体にわたる秩序だった構造が組織化される現象)される。
また集団においては、隣り合う歩行者間で歩行ステップのタイミングが自然と揃う「同期現象」も生じることがある。従来研究では一列に並んだ歩行者による実験が行われ、その結果、同期が生じる理由として、前の歩行者とぶつからないよう、同じ側の足を同時に踏み出すためと考えられてきた。それに加え、集団に一定テンポの音や音楽に合わせて歩いてもらうと、流れが良くなるという報告もある。
しかし普段街中を歩く時、実験のように一列に制限されることはあまりなく、通常は自己組織化を通して空間的な構造が生じる。個々の歩行ステップが集団の流れや自己組織化に与える役割を理解するためには、一列に制限するのではなく、より自由に歩ける状況での検証が不可欠だとされることから、研究チームは今回、その考えのもとに、24人ずつの2集団が対面して歩いた時に生じるレーン形成を対象とした実験を実施することにしたとする。
具体的な観察方法としては、ビデオ解析による歩行軌跡の取得と合わせ、ステップのタイミング計測のため、歩行者の両足首に加速度センサを装着し、歩行に条件をつけた場合とつけない場合の比較がなされた。前者では、歩行者の平均的な歩行テンポを聴覚的に再現する電子メトロノーム音を常時スピーカーから流し、それに合わせて歩行。後者では、音のガイドがない状態で通常通りに歩行を行う形で、それぞれ20回ずつ施行された。
その結果、音のガイドがある場合には明確なステップの同期が見られたが、ガイドがない場合、従来研究とは異なり同期は生じず、足並みは自発的には揃わないことが判明したという。さらに、外的な音のガイドによって生じた同期は、形成される集団の空間構造を脆弱にすることも確認されたとする。
具体的には、まず音のガイドがある場合の方がない場合より、レーンの本数が有意に多く形成されたという。理論研究から、レーン数が多い(レーンが細い)ことで対向歩行者との接触面が増え、集団の空間構造が不安定になることが予測された。実際、ガイドがある場合の方が潜在的な衝突のリスクが高いことも今回の研究により定量化されたとする。
またガイドがある場合、歩行者は有意に大きく肩を回転させており、向かい側から来る歩行者と衝突寸前で回避していることも判明。これらの結果はすべて、ガイドがなく足並みが揃わない場合の方が、ガイドによって同期が生じる場合よりも、より頑健な集団の空間構造を形成していることを支持しているとした。
さらに、ガイド音によって外的に生じる同期は、レーンを形成する上で重要な、歩行者の横方向の動きを少なくさせ、単調なものとすることも確かめられた。逆に言えば、横方向にも柔軟に移動し、頑健なレーンを形成するためには、歩行者は自分自身のタイミングで動ける必要があることが考えられ、それにより、わずかに歩行のタイミングを遅らせたり早めたりすることで、他の歩行者との動きの調整を可能とし、対向歩行者とスムーズに避け合い、同方向の歩行者と合流し、頑健な集団を形成・維持することができると推測されたとしている。
なお、今回の成果について共同研究チームは、集団での相互作用における非同期性の重要性が提起されるものであり、歩行者交通マネジメントや、非同期で動かざるを得ない自律分散型ロボットナビゲーションへの貢献が期待されるとしている。