7月8日から10日まで、東京・虎ノ門ヒルズフォーラムにてアジア太平洋地域(APAC)最大級の国際宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE 2024」が開催された。

国内外からおよそ1500名の参加者が集まり、3日間にわたって約50ものセッションや展示会場での交流など、さまざまな“宇宙ビジネスの種”が生まれた今年のカンファレンス。開幕に際しては、SPACETIDEの石田真康CEOや内閣府で宇宙政策の中心を担う高市早苗内閣府特命担当大臣が登壇し、イベントおよび日本宇宙産業への期待を語った。

  • 登壇した石田真康CEO

    SPACETIDE 2024の開幕に際し登壇した石田真康CEO

「APACは宇宙産業における新たな成長ドライバ」

SPACETIDE 2024は、日本国内はもちろん世界各国の宇宙ビジネスプレイヤーが集うカンファレンスで、9回目の開催となった今回は「APACから世界へ:多様なコミュニティが紡ぐ宇宙ビジネス」と題し、APACから生み出される新たなトレンドを発信する場として、さまざまな切り口から約50ものセッションが行われた。

SPACETIDEの石田CEOはオープニングセッションの中で、「日本をはじめAPACの各国は、宇宙産業の中で無視できない存在になっている」と語る。日本においては、内閣府と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の連携により、宇宙関連技術の開発加速を後押しする「宇宙戦略基金」が始動するなど、政府としての支援が活発化。また技術の面でも、JAXAの小型月着陸実証機「SLIM」が月面へのピンポイント着陸に成功したのに加え、アストロスケールの商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」がデブリへの接近および近傍運用を成功させるなど、多くのマイルストーンを達成している。さらに、宇宙業界の外からもステークホルダーを巻き込んだビジネスも動いており、日本の宇宙業界はますます存在感を増しているとする。

  • 近年の日本宇宙トピック

    日本の宇宙産業界で近年起こったトピック

さらに視野を広げると、APACには約20の宇宙機関が存在し、各国で宇宙開発への関心が高まっている。そしてそれぞれが大きな成長のポテンシャルを有しているとした石田氏は、「APACが宇宙産業における次の成長ドライバになる」と断言する。

こうした発展の中では、非常に多くの“宇宙スタートアップ”が重要な役割を担っているとのこと。前出のアストロスケールなど国内には宇宙スタートアップが数多く存在し、その数は今なお増加中だ。その流れはAPAC諸国でも同じで、各社が技術開発などを進めながら成長を牽引している。

また石田氏は、こうした成長を続け加速させていくためには、今まで以上に大規模な連携が必要だとする。その方法としては、宇宙業界に限らず宇宙を主戦場としない企業を巻き込んでビジネスを拡大させる業界間連携、技術開発を進める新興国と支援能力を有する先進国とのパートナーシップ、そして国際的なジョイントベンチャーなどを介し多くのプレイヤーが参画する大規模協業などが考えられるといい、「ステークホルダーが増加する今後の宇宙ビジネスにおいては、多様なパートナーシップを広げていく必要がある」と語られた。

日本政府の宇宙戦略を率いる高市早苗大臣も登壇

石田氏に続き、内閣府特命担当大臣を務め日本政府の宇宙戦略を指揮する高市早苗氏が基調講演に登壇し、宇宙産業への期待を語った。

  • 高市早苗内閣府特命担当大臣

    基調講演を行った高市早苗内閣府特命担当大臣

高市大臣は2024年1月1日に発生した能登半島地震における人工衛星活用に触れ、「日本企業が運用する衛星のデータが提供されたことで、被災状況の把握について大きな貢献となった」と語る。そしてこうした活用を拡大するため、「衛星の機数を増やし、取得したデータをアーカイブして分析することで、防災や農林水産業、インフラ制御などさまざまな分野で活用することが、今後より一層重要になる」と話した。

また衛星を宇宙に運ぶためにも重要となるロケットの打ち上げ体制については、2030年代前半までに国内の産官による打ち上げ能力を年間30基程度まで高めることを目標とし、宇宙輸送を強化する姿勢を改めて示した。

そして高市大臣は、「2024年は“アクション”の年。準備してきた施策をしっかりと実行し、宇宙政策のさらなる強化に尽力することで、宇宙に携わる人々をサポートしていく」と語った。

開幕ディスカッションのテーマは“宇宙の持続可能性”

オープニングセッションに続いては、商業的利用が急速に拡大する中で無視できない“宇宙の持続可能性”をテーマに据えたパネルディスカッションが行われた。同セッションには、アストロスケールCOOのChris Blackerby氏、AXA XLで宇宙部門のグローバルヘッドを務めるChris Kunstadter氏、NECの三好弘晃フェロー、イギリス宇宙局 チーフエグゼクティブのPaul Bate氏が登壇。セキュアワールド財団のVictoria Samson氏がモデレータとなり、サステナブルな宇宙利用について議論を交わした。

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    “宇宙の持続可能性”をテーマに行われたパネルディスカッションの様子

モデレータのSamson氏は、「宇宙環境のサステナビリティは“あったらいい”ものではなく“無くてはならないもの”」とディスカッションの口火を切る。さまざまな企業による開発競争が活発化し、衛星の打ち上げ機数も急増する中で、それに伴って軌道上が混雑し、衝突の危険性などさまざまなリスクが顕在化している。

そうした中で、AXA XLのKunstadter氏は「宇宙ビジネスにおける責任を持つということは、他の衛星に対しても配慮することが必要となる」と話す。なお、米国連邦通信委員会が2024年9月30日以降に打ち上げる低軌道衛星に対し、ミッションを終えてから5年以内に保護軌道から離脱させ廃棄軌道へと移すことを義務付けるなど、制度面の整備も行われており、今後はよりグローバルな視点での制度作りが行われていくと予想される。

  • Chris Kunstadter氏

    AXA XLのChris Kunstadter氏

  • Chris Blackerby氏

    アクセルスペースのChris Blackerby氏

また、Blackerby氏が所属するアストロスケールではデブリ除去サービスの構築を目指すなど、軌道のサステナビリティ確保に貢献する企業が出現している最中。サステナブルな衛星の利用や、宇宙空間をサステナブルにするための衛星活用など、さまざまな角度からの宇宙ビジネスが今後も活発化していくことだろう。

Kunstadter氏は、これからずっと求められることとなる宇宙の持続可能性について「サステナビリティの確保に対しては行動を起こさない人が往々にして多い。しかし、まだ起こっていないだけの悲劇に対する動きを活発化させるために、もっと大衆を巻き込んで動いていかなければならない」と語り、そのためには国際的な協力もより重要になっていくと展望した。

3日間で生まれた宇宙ビジネスにおける無数の“つながり”

SPACETIDE 2024は、およそ35カ国のさまざまな業界から1500名を超える参加者を集め、数多くのセッションや展示を通じたコミュニティとしてつながりを生み出し、幕を閉じた。

宇宙産業における次の成長ドライバとなることが期待されるAPACにおいて、今回のカンファレンスから生まれたつながりはどんな花を咲かせるのか。急速な発展を遂げる宇宙ビジネスの中で結実する日は、そう遠くないことだろう。