インターステラテクノロジズ(IST)は、6月より新経営体制へと移行したことなどを受け、7月4日に事業報告会を開催。新たに経営陣に加わった取締役3名が登壇し、その役割や想いについて語るとともに、同社代表取締役CEOの稲川貴大氏が事業の現在地や将来への展望を説明した。

  • IST事業報告会に登壇した同社の新たな経営陣

    IST事業報告会に登壇した同社の新たな経営陣。左から熱田圭史取締役COO、稲川貴大代表取締役CEO、中山聡取締役VP of Launch Vehicle、辻高広取締役CFO

大きな進展のあった2024年 - ZEROの開発は順調に進行

“宇宙の総合インフラ会社”を標榜するISTは、「誰もが宇宙に手が届く未来」をビジョンに掲げ、低コストかつ高頻度での打ち上げが可能なロケットの開発などを行っている。同社はこれまで観測ロケット「MOMO」の製造および打ち上げに何度も挑戦。初号機・2号機の打ち上げには続けて失敗するも、2019年に打ち上げを行った3号機で初めて高度100km以上の“宇宙空間”に到達。その後2021年には、1か月の間に2度のロケット打ち上げを成功させており、高頻度での宇宙輸送実現に向けた歩みを着々と進めている。

そして同社は現在、MOMOよりもサイズが大きい人工衛星用ロケット「ZERO」の開発を進めている真っただ中。サブスケールモデルでの開発・試験は順調に進んでいるといい、2024年度以降の打ち上げを見据え、今後はフルスケール試験に向けた製造に移っていくとする。

  • 人工衛星用ロケット「ZERO」

    ISTが現在開発を進めている人工衛星用ロケット「ZERO」(c)インターステラテクノロジズ(提供:IST)

そんな同社にはここ1年の間に、事業面で大きな進展を遂げたとのこと。文部科学省による中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)への採択や、宇宙航空研究開発機構(JAXA)による産学官連携での輸送・超小型衛星ミッション拡充プログラム(JAXA-SMASH)での優先打ち上げ事業者への選定など、事業を加速させる決定が相次ぐとともに、イタリア宇宙ベンチャーのD-Orbitとの包括契約を締結するなど、グローバルを舞台に市場獲得に向けた動きを推進してきたという。

稲川氏は今後のISTについて、さらなる事業拡大を目指して人員や拠点の増強を図るとのこと。現在は170人強となっている社員数は今後も増やし、北海道大樹町や東京都内などに構える拠点体制の拡大・強化も継続的に行っていくとしている。

  • 稲川CEO

    ISTの事業について報告する稲川CEO

新たな経営体制を率いる取締役3名が担当領域の展望を説明

今回の報告会では、新たに取締役に就任した3名も登壇し、それぞれの担当分野における現状や計画を語った。

中山聡 取締役 VP of Launch Vehicle

取締役 VP of Launch Vehicleに就任した中山聡氏(衛星開発部 部長兼務)は、ISTの特色として「ロケット製造における内製率の高さ」を強調。生産技術や試験、品質管理など全体を社内で行うことにより、ロケット開発における競争力の鍵となる設計の自在性を確保し、低コスト・高頻度打ち上げに加え、市場ニーズに対して柔軟に対応できる体制の構築を目指すとする。

  • 中山聡VP of Launch Vehicle

    中山聡取締役 VP of Launch Vehicle

また社内の開発体制については、さまざまな経歴を持つメンバーが集結している点を特徴の1つとして挙げた。宇宙機開発に携わってきたメンバーを中心に構成されたエンジン・アビオニクスなどの開発チームに対し、構造の面では自動車業界など他業種からの知見を融合させたり、生産技術の面では製造業の現場を知る社員からの効果的なフィードバックを活用したりと、あらゆる知見を組み合わせながら最適な体制を整えているという。

そうした体制の下で現在開発を進めるZEROについては、エンジンの燃焼器単体試験やエンジン用ターボポンプの冷走試験、推進剤タンクの圧力試験などに無事成功するなど、順調に進行しているとのこと。サブスケールでの最終試験が現在進行中とのことで、無事成功すれば、いよいよフルスケールでの製造に進むことになると話した。

熱田圭史 取締役 COO

熱田圭史氏は、事業開発や経営企画などビジネス面を担当するCOOに就任。ISTが目指す高頻度打ち上げを実現した先に、「ロケット×通信事業」というサステナブルなビジネスモデルを見据えているという。

  • 熱田圭史COO

    熱田圭史取締役 COO

人工衛星の打ち上げ数が爆発的に増加する背景には、将来的な衛星コンステレーションの構築による新たな通信環境の構築を目指す動きがある。ISTでは、衛星の打ち上げに不可欠なロケットの開発を担っており、衛星のペイロードというビジネスが可能となる。加えて同社は衛星開発も行っていることから、その垂直統合体制を活かした一気通貫での対応により、顧客ファーストでの新たなビジネスを実現したいと語った。

辻高広 取締役 CFO

財務を司るCFOに就任した辻高広氏は、近年の宇宙輸送機市場を展望し「ISTが世界の宇宙産業に貢献できる可能性は大いにある」と話す。というのも、2018年ごろからスタートアップが数多く存在していた輸送機市場において、現在でもそのメインプレイヤーは変わっておらず、輸送機の供給不足は解決されていない。そうした情勢の中で着実にロケット開発を進めることができれば、業界での存在感を高められると展望した。

  • 辻高広CFO

    辻高広取締役 CFO

その実現の中でやはり必要となるのが、資金力だ。現時点では個人・小型法人の投資家や地元の金融機関などを中心として経営資金を確保してきた同社だが、辻氏は「そういった方々にも感謝をしながら、さらなる発展のためにより大きな投資も得ていく必要がある」とする。そのため今後は、グローバル規模での投資やメガバンクによる融資につなげられるよう、あらゆる方策を打ち出していくとしている。