ソニーグループは、「事業戦略説明会2024」を開催。イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)分野の取り組みについて、ソニーグループの上席事業役員であり、ソニーセミコンダクタソリューションズ 代表取締役社長兼CEOの清水照士氏が説明した。

  • ソニーセミコンダクタソリューションズ 代表取締役社長兼CEOの清水照士氏

    説明を行ったソニーセミコンダクタソリューションズ 代表取締役社長兼CEOの清水照士氏

2023年度は、ソニーグループが取り組む第4次中期経営計画の最終年度にあたっており、清水社長兼CEOは、「I&SSにとっては、中長期の成長に向けた仕込みの3年間であった」と位置づけ、「不確実性が高く、見通しが難しい状況が続いていたが、イメージセンサー事業を中心に、市場の伸びを上回る事業成長を実現できたことは成果といえる。それを支えたのが、成長を確実なものにするための投資であり、ナンバーワンのポジションを強固にすることができた。だが、投資に対する効率が悪化し、収益性の改善では課題が残った。とくに、2023年度に発生した歩留まり問題は経営に大きなインパクトを与えた。この経験からしっかりと学び、社内の組織体制や業務プロセスの総点検を行った。足元では確実に改善が進んでいる」と総括した。

  • 第4次中期経営計画のレビュー

    第4次中期経営計画のレビュー (出所:ソニーセミコンダクタソリューションズ、以下すべて同様)

市場は停滞も、大判化のトレンドは継続

イメージセンサー市場全体では、当初の見通しよりも約1年遅れで成長が推移。市場の過半を占めるモバイルイメージングは緩やかな成長に留まり、スマートフォン(スマホ)市場が期待していた成長に届かなかったことを要因にあげている。だが、センサーの大判化は順調に進んでおり、市場の停滞を補っているという。

「スマホ市場の停滞は底を打ち、緩やかな回復の兆しが見えている。大判化のトレンドも継続し、これがイメージセンサー市場全体の成長を大きく牽引することになる。センシング領域は減少しているが、中長期では緩やかに成長する。カメラ領域は高付加価値機種の販売が好調である。イメージセンサー市場全体の2030年度までの年平均成長率は約9%になる。これまで同様に、成長市場であるという見方に変化はない」と語った。

2024年度からスタートしている第5次中期経営計画では、I&SS分野の取り組みとして、「収益性を伴う成長に向けた経営基盤の再構築」を掲げ、収益性を意識した投資効率の改善、開発力と製造力の再強化、事業領域ごとの方向づけを行う。

  • 第5次中期経営計画

    第5次中期経営計画の方針

「成長に向けた設備投資は継続するが、前中計で設営したキャパシティを含めて既存資産を最大限活用し、投資は厳選していく。設備投資は前中計の約7割を想定している。研究開発投資についても将来への仕込みはしっかりと行うが、テーマの精査を通じて効率改善を進め、売上高研究開発費率では減少することになる。成長にはこだわりながらも、ROICを重視し、2023年度を底に緩やかな改善を目指す考えである。また、歩留まり問題の反省を生かして、難易度の高い技術開発の完成度を早期に高め、量産へのスムーズな移行ができるように、開発力と製造力を再強化する」とした。第5次中期経営計画では、ROICで10~13%を見込み、2027年度以降の第6次中期経営計画では20%を目指す。

  • 設備投資の今後3年間の計画

    イメージセンサー向け設備投資の今後3年間の計画

  • 研究開発費の今後3年間の計画

    研究開発費の今後3年間の計画

熊本県に新たなイメージセンサー工場建設を決定

また、熊本県合志市における新工場の建設を決定。将来のモバイル用イメージセンサーの需要増に備えるという。「まずは、リードタイムと労働力の確保を要する建屋の建設を進め、製造装置を含めたライン設営に向けた投資は、今後の需要動向を慎重に見極めながら判断する」という。

  • 熊本県に建設予定の新工場イメージ

    熊本県に建設予定の新工場イメージ

さらに、ソニーセミコンダクタソリューションズが少数株主として出資している台湾TSMCが設立した熊本県菊陽町のJapan Advanced Semiconductor Manufacturing(JASM)に関しては、「2024年2月に第1工場の開所式を行い、22nmの量産準備が順調に進んでいる。第2工場は将来の12nmに備えたキャパシティの準備という位置づけである」と述べた。

各領域ごとの戦略

I&SSでは、現在の事業を、「成長牽引事業領域」、「収益事業領域」、「戦略事業領域」の3つに分類し、それぞれに事業の方向性を明確にしていく考えを明らかにした。

そのなかで、「成長牽引事業領域」には、モバイル用イメージセンサーを位置づけている。成長投資を継続しながら、中長期でI&SS事業の成長を牽引することになる。

「モバイル用イメージセンサーの市場成長を牽引するのは動画である。動画によるクリエイションやコミュニケーションの拡大が見込まれ、カメラの性能強化の流れが続くだろう。モバイルカメラの性能進化においては、感度・ノイズ、ダイナミックレンジ、解像度、読み出し速度、消費電力の5つが重要であり、いずれもイメージセンサーの性能に依存するものである。静止画では、画像処理の効果を最大化するためにセンサーの特性が高いことが大前提となる。さらに、動画では、リアルタイム性の実現において、センサーの優劣が直結することなり、技術進化の余地がまだ大きい。ソニーには、長年の技術やノウハウの蓄積があり、センサー技術の総合力が、競合に対する強みになる」と語った。

  • モバイル向けCOMSイメージセンサーの性能進化の方向性

    モバイル向けCOMSイメージセンサーの性能進化の方向性

スマホに搭載されるメインカメラに加えて、サブカメラでも大判化が進むと想定しており、さらに進展する大判化がモバイル用イメージセンサーの市場拡大を牽引すると見ている。

  • サブカメラでも大判化が進むことが予想される

    サブカメラでも大判化が進むことが予想される

「収益事業領域」は、デジタルカメラ向けや、セキュリティ分野をはじめとした産業・社会インフラ用イメージセンサーが含まれる。ここでは、「高い競争力を維持、強化しながら、収益を最大化することになる」としている。

「戦略事業領域」においては、車載用イメージセンサーやシステムソリューション、OLEDマイクロディスプレイ、半導体レーザーで構成する。事業のスケール拡大や収益化には一定の時間を要するが、将来のビジネスの柱に育てるべく、戦略的に投資をしていく領域に位置づけた。

車載用イメージセンサーでは、「今後生産されるクルマに搭載されるカメラの数が増加し、スマホと同じように多眼化が進む。クルマそのものの販売台数は緩やかな上昇だが、車載カメラの数量伸長は6倍以上に伸びると想定しており、これがセンサー事業の成長機会に直結する」と指摘した。現在のクルマでは、1台あたり8個のカメラが搭載されているが、2027年には12個のカメラが搭載されると想定している。

  • 車載カメラの増加傾向

    車載カメラの増加傾向。現状の8個から2027年には12個にまで増加することが予想される

自動運転の高度化により、フロントセンシングでは長距離を認識するニーズが高まり、小画素化や多画素化が進展。LEDフリッカー抑制(LFM)を実現しながら、HDRを実現していくことが求められるほか、ビューイングとセンシングをひとつのセンサーで実現したいというニーズへの対応が重要なポイントになるという。

「この領域においても差異化技術の開発を進める。これにより、今後の競争を勝ち切れる」と自信をみせた。

2026年度には、車載用イメージセンサー市場において、金額シェアで43%(2023年度は32%)を目指しており、2026年度までに車載向けイメージセンサー単独で黒字化させる計画だ。

  • 車載向けイメージセンサーにおける金額シェア目標

    車載向けイメージセンサー市場における金額シェア目標

イメージセンサー以外の領域にも注力

HDDの記録方式として注目されているHAMRに対応した半導体レーザーにも力を注ぐ。この分野で製品化を進めているSeagate Technologyとの協業を進めており、ソニーセミコンダクタソリューションズでは、HAMR対応の半導体レーザーを世界に先駆けて量産化することに成功した。

生成AIの活用やクラウド化の進展により、データセンター需要が増大するなかで、今後は30TB以上の大容量HDDに対するニーズが拡大すると想定されており、HAMRへの関心が高まるにつれて、同社の半導体レーザービジネスが拡大すると見ている。

  • 半導体レーザー技術をHDDの記録密度の向上に活用

    これまで培ってきた半導体レーザー技術をHDDの記録密度の向上に活用

「情熱を持ったエンジニアが長い時間をかけて、コスト競争力があるものを作り上げた。2030年には数100億円レベルの利益を確保したい」と述べた。

OLEDマイクロディスプレイでは、エレクトリックビューファインダーによる既存市場から、VR/AR市場へとシフトし、ヘッドマウントディスプレイやARグラスへの採用が進むと予測している。

「OLEDマイクロディスプレイは、半導体技術を活用したシリコンベースのデバイスであり、積み重ねてきた半導体技術を生かし、他社と差異化できる領域である。高輝度や高解像度といった点で技術優位性を発揮できる」と述べた。

  • OLEDマイクロディスプレイ市場の成長にも期待

    高解像度、高輝度を実現可能なOLEDマイクロディスプレイ市場の成長にも期待

システムソリューション領域では、AITRIOSの進捗状況について触れた。

小売、物流、工場において、主要顧客やパートナーとの連携を推進。実証活動が進んでいるという。また、2023年に協業を発表したRaspberry Piとともに、IMX500を搭載したAIカメラの発売に向けた準備も進んでいるとした。

  • 実際の現場での活用も進みつつあるAITRIOS

    実際の現場での活用も進みつつあるAITRIOS

AITRIOSの具体的な導入事例も動き始めている。セブン-イレブン・ジャパンでは、店舗内のデジタルサイネージの視聴人数や時間などを自動検知。三井倉庫サプライチェーンソリューションでは、荷物積卸し場(バース)の利用実績データを取得したという。今後、顧客との連携を強化しながら、導入規模を拡大していくことになる。

2025年にはイメージセンサー市場の金額シェア60%を目指す

ソニーセミコンダクタソリューションズでは、イメージセンサー市場において、2025年の金額シェアで60%を目標にしている。清水社長兼CEOは、「この目標は達成できると考えている。2025年以降も市場が成長するなかでポジションを強固なものにし、もう一段のシェア向上を目指す」と意気込みをみせたほか、「世界を代表する半導体メーカーとしての自覚を持ち、収益性を伴う成長にこだわりながら、これを確実に実行し、ソニーグループ全体の中長期的な企業価値の向上に貢献したい」と語った。

  • 2025年には金額シェア60%を目指す

    イメージセンサー市場全体で2025年には金額シェア60%を目指す

なお、同社では、ESG方針「サステナビリティコンパス」を打ち出しており、2030年を想定した7つの社会像を示している。

今回の説明会では、アクセシビリティの観点から説明し、「イメージング&センシング技術をマルチモーダル化し、映像情報を視覚以外の感覚器官に届けることで、新たな提供価値を生み出すことができる」とした。

具体的には、指輪型デバイスに搭載されたカメラを、売り場の商品にかざすだけで、音声情報として届けることができたり、メガネのフレーム部分に、広域に映像を捉えることができるカメラを搭載し、危険を検知して振動で通知するといった提案が可能になるとしている。

「身体的なハンデキャップを抱える人たちの日々の生活の不便を解消し、自立を支える活用例になると期待している。半導体デバイスメーカーならではのアプローチにより、アクセシビリティの新たな可能性を開拓したい。様々なパートナー企業と実証実験を進めていきたい」とした。