imecとオーストリアのがん治療細胞療法の新興企業であるSarcuraは5月20日、集積フォトニクスを使用したオンップ・フローサイトメーターの概念実証に成功したと発表した。

この成果の詳細はNature Publishing Groupの「Scientific Reports」に掲載された。

  • オンチップ・フローサイトメーター

    オンチップ・フローサイトメーター (出所:imec)

ヒトの白血球の検出と識別のための独自のプラットフォームを提供し、費用対効果が高く、スケーラブルで高度に並列化された細胞分析に向けて大きな進歩を示している。

人間の細胞を正確に識別することは、病気のメカニズムを理解し、標的を絞った個別治療を実現するうえで重要な作業となる。現代医学では、生きた細胞の治療も可能になりつつあり、がんに対するCAR-T免疫細胞療法などが知られているが、複雑な細胞群からこれらの治療用細胞を高スループットで識別するためには時間的制約があることが課題となっている。

現在の手法は、通過する細胞にレーザーをあてて蛍光シグナルなどを検出するフローサイトメトリーであるが、この手法では、かさばる機器、複雑かつ手動によるワークフローに伴う汚染リスク、高い運用コストなどの課題があり、実用化の妨げになっている。

半導体技術で細胞分析用光流体チップを開発

これらの課題解決に向けてimecでは CMOSテクノロジー、フォトニクス、および流体工学の専門知識を活用して、フローサイトメトリーを自動化、小型化、並列化する手法の検討を行ってきたという。

今回の協業で開発された光流体チップは、imecの200mm CMOSパイロットラインで製造され、導波路光学系による細胞照明と散乱光の捕捉、およびマイクロ流体チャネルを使用した検出ポイントへの正確な細胞送達の両方を促進するものとなっている。

SarcuraのCEO兼共同創設者であるDaniela Buchmayr氏は、「この新しいフォトニクスチップで実証されたように、シリコンフォトニクスは、小型化された設置面積上で単一セルの検出機能と大規模な並列化を融合する革新的かつ不可欠な構成要素である。この画期的な進歩により、細胞治療薬の製造などのアプリケーションにおけるこれまで未解決の課題に対処する新たな可能性が開かれた」とコメントしている。また、imecの科学ディレクターであるNiels Verellen氏は、「モノリシックに集積されたバイオフォトニックチップを使用して、患者の血液サンプルからリンパ球と単球を区別できる光散乱信号を、市販のフローサイトメーターと同等性能で収集できることを実証した。主な利点は、複数のフローチャネルを高密度に並列化してシステムのスループットを向上させる可能性があることで、次のステップでは、コンパクトでアライメントフリーの設計により、限られた時間内に数十億の細胞を識別できるようにすることを目指す。重要なのは、チップアーキテクチャがimecが以前開発したバブルジェット細胞選別モジュールとシームレスに統合され、ウェハ上で製造することができることである。その実現に向けた今回の概念実証は、高コスト効率かつスケーラブルで、並列化された細胞選別プラットフォームに向けた一歩である」と述べている。

  • チップ層スタックの概略断面図

    (左)チップ層スタックの概略断面図。チップへの光の照射、細胞の照明、細胞散乱信号の収集と検出を示している。(右)オンチップ・フローサイトメーターで測定した全末梢血単核細胞サンプルの散布図 (出所:imec)