DigitalBlastと北海道大学(北大)の両者は4月19日、火星を模擬した環境下での植物の成長メカニズムの研究とその実用化に向けた「テラフォーミングプロジェクト」を開始したことを共同で発表した。
同成果は、DigitalBlastと、北大大学院 理学研究院・藤田知道教授らの共同研究チームによるもの。
現在、アルテミス計画が進行中で、2020年代末には月面に恒久的な有人活動拠点が建設される予定であり、これは2030~40年代に実施予定の火星有人探査にもつながっている。月は地球から約380万kmの距離にあり、現在の人類の技術力の場合、1週間あれば物資を送り届けることができるが、火星有人探査の場合はそうはいかない。およそ2年2か月ごとに訪れる地球への火星最接近のタイミングを利用したとしても、両惑星間の移動は片道でも最低半年はかかると見積もられており、複数の宇宙飛行士を送り込むのであれば、地球からすべて食料を持って行こうとした場合、その人数×数年分の量が必要となってしまう。
それだけの食糧を輸送するとなると、地球から打ち上げるだけでも膨大なコストがかかる。また、輸送できる量にも制限があるため、すべてを地球から持って行くというのは困難と考えられている。そのため、国際宇宙ステーション(ISS)などの軌道上の拠点も含め、月や火星などにおいて食料を生産するための技術や仕組みの開発が精力的に進められている。
宇宙への参画を模索している民間企業や民間の研究機関も、微小重力あるいは月重力下における植物育成に高い関心を寄せているが、微小重力下での植物生理実験は、2008年のISSの日本実験棟「きぼう」運用開始以来の16年間で12テーマしか行われておらず、またその多くが発芽期あるいは幼植物体での実験で、植物育成と重力との関係性理解は非常に限定的とされている。
そのためDigitalBlastでは、宇宙での食料生産につながる植物栽培に必要な基礎的知見を得るため、長年にわたり植物の発生や環境応答に関する研究を行ってきた藤田教授の研究室との共同研究を行うことにしたという。
今回の共同研究のテーマは、月と火星を模擬した疑似低重力下での「ヒメツリガネゴケ」の細胞レベルおよび個体レベルにおける重力応答メカニズムの解明を目指すというもの。疑似低重力環境を生成して植物を栽培することにより、成長制御の鍵となる新規遺伝子群を見出し、その制御網を解析することで、重力による成長調節がどのような分子機構により制御されるのかを解明するという。そして、植物の重力応答統御システムの全貌解明に迫ることを目的とするとしている。
月や火星などの地球外環境は1Gよりも小さな重力環境にあるが、これまでの過重力栽培実験や、「きぼう」船内を利用した微小重力宇宙栽培実験によって、重力の大きさに応じて光合成活性や成長量(バイオマス)を増加させる可能性のある転写因子の存在が明らかにされつつある。
今回の研究では、新しい「3D-クリノスタット」制御技術を開発することで、月の重力である1/6G、あるいは火星の重力である1/3Gに相当する偏差を生じさせ、これらの転写因子の機能や作用機序を詳細に調べてその分子制御機構を解明し、月面での農業活動における植物への影響の評価に取り組むという。なお、3D-クリノスタットとは、三次元的な回転により連続的に重力の方向を変化させることで、重力環境を変化させる装置のこと(回転軌道を変えることで、擬似的に微小重力など任意の重力環境を作り出すことが可能)。
今回の共同研究では、最終的には遺伝子制御系を人為的に操作することで、地上1G環境も含め、ISSなどでの微小重力環境や、月や火星などの低重力環境でも成長が促進される植物を開発することも視野に入れているとした。さらに、今回の研究が研究者および民間企業の興味・関心を喚起し、「きぼう」を筆頭にISSの民間利用ニーズを高めることで宇宙植物学が進展し、将来的には、火星環境下での植物育成(テラフォーミング)まで発展することも期待しているとした。