米国政府は4月15日(米国時間)、Samsung Electronicsに対して「CHIPS法」に基づき最大64億ドル(1ドル150円換算で約9750億円)の直接資金(補助金)を支給することを決定したと発表した。またSamsungは、適格資本支出の最大25%をカバーする予定の米国財務省の投資税額控除も受けられるという。
米商務省によると、「Samsungは、今後数年間でテキサス州に400億ドル(約6兆円)を超える投資を行う計画としており、これにより2万人以上の直接および間接雇用が創出されることになる」という。同省では、Samsungなど半導体企業各社の米国への投資により、2030年までに米国が世界の先端ロジックの約20%を生産する計画が軌道に乗るとみている。
米国新工場では2nmプロセスや先端パッケージングに投資
Samsungは、テキサス州テイラー市の新工場およびテキサス州オースチン市の既存工場に投資を行う計画で、テイラー新工場では、以下のように4nmのみならず2nmプロセスでも生産を行うとともに、米商務省の要請で先端パッケージングまでも行う計画で、これにより米国内で前工程から後工程までの一貫生産が実現されることとなる。
投資内容
- 4nm/2nmプロセスによる量産に重点を置いた2つの先端ロジックファウンドリファブ
- 現在生産されているプロセスよりも先の世代の開発と研究に特化したR&Dファブ
- AI向け高帯域幅メモリ(HBM)や2.5Dパッケージングを担当する先端パッケージング施設
米国既存工場ではFD-SOIラインを拡張
一方のオースティンへの投資内容としては、既存施設の拡張が計画されている。主に、航空宇宙・防衛、自動車を含む米国の重要産業向けの最先端のFD-SOIプロセス技術の生産を拡張するためのもので、この投資には、米国国防総省と協力して受託生産を行うという約束が含まれている。
米商務省は、補助金支給の前提として先行するIntelやTSMC同様、地元大学や高校などの教育機関とのパートナーシップによる将来の半導体労働力訓練の実施や、熟練した労働力の雇用維持に向け、利用しやすく、かつ質の高い保育施設を設置することを求めている。また、半導体工場に対しても、最先端の持続可能性戦略を採用し、カーボンフリーの電力使用の促進と水資源の節約、環境への影響の回避または軽減を行うことを求めている。
半導体製造強化向け補助金予算の残りは120億ドルに
CHIPS法は、米国の半導体研究開発や製造を強化するために5年間で総額527億ドルの予算を充当した法律である。このうち、半導体製造強化のための補助金として5年間にわたり総額390億ドルの予算が確保されているが、米商務省は、すでにIntel、TSMC、Samsungへの大型直接投資をはじめ合計260億ドル余りの補助金支給を決定済みで、それらを差し引くと残りは120億ドル余りとなる。商務省にはMicron Technology、Texas Instruments、SK hynixはじめ、世界から多くの半導体メーカーが補助金申請しているといわれており、中でもMicronは、政府からの補助金を当てにしてニューヨーク州に1000億ドル(15兆円)投じて超巨大ファブの建設を発表しており、もし米国政府がMicronにも巨額の補助金を支給することを決めれば、補助金の残額はわずかなものとなり、残された多くの半導体メーカーは補助金の支給を受けられないこととなる。