宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1月25日、1月19日~20日に行われた小型月着陸実証機(SLIM)の月面着陸降下運用の結果や得られた成果に関する記者会見を開催し、SLIMが月面への着陸および地球との通信を確立し、主ミッションであった100m精度でのピンポイント着陸に成功したことを報告するとともに、同実証機に搭載されたマルチバンド分光カメラ(MBC)が撮像した月面画像を公開した。

  • SLIM搭載マルチバンド分光カメラによる月面スキャン撮像モザイク画像

    SLIM搭載マルチバンド分光カメラによる月面スキャン撮像モザイク画像(左)とその拡大図(右) (C)JAXA/立命館大学/会津大学

高度50mまでは順調に進行しピンポイント着陸技術も実証

1月19日から20日にかけて行われたSLIMの月面着陸降下運用は、100m精度でのピンポイント月面着陸、障害物検知を経た自律的な着陸誘導などに関する技術実証を目指したもの。JAXA 宇宙科学研究所 SLIMプロジェクトチームの坂井真一郎プロジェクトマネージャは、「2段階着陸ダイナミクス以外の技術については技術実証できたと考えている」と話す。

そして会見では、探査機の電源をオフにするまでに取得した各データの分析を行った結果、SLIMが当初の目標着地地点から東側に55mほどの位置で月面に到達していることが確認できたとした上で、運用に関する分析結果が報告された。

SLIMの月面着陸シーケンスにおいては、高度50m付近までの運用は正常に進行し、特に14回実施された画像照合航法については、その航法結果も含め正常であったという。またピンポイント着陸性能を示す障害物回避マヌーバ開始前(高度50m付近)の位置精度としては、10m程度以下であったと評価しているといい、今後詳細データの評価は継続する必要があるものの、SLIMの主ミッションであった100m精度のピンポイント着陸の技術実証が達成できたとしている。

しかしながら、SLIMの着陸時の姿勢が正常でなかったなどの理由から、2段階着陸については技術実証に至らなかったとのこと。その要因については、高度約50m時点で障害物回避マヌーバを開始する直前に、2基搭載されているメインエンジンのうち1基の推力が失われた可能性が高いとする。現状の分析では、エンジン脱落後にはSLIM搭載ソフトウェアが自律的に異常を判断し、徐々に東側へと移動するSLIMの水平位置をなるべく保つよう制御しながら、降下を継続し着陸したと予想されるという。

またSLIMは着陸後の約45分間にわたって、MBCによる月面観測運用を実施。探査機の送信機温度が動作保証温度を超過しないよう、当初予定されていた35分程度の観測を15分に短縮し、結果として257枚の撮像・ダウンリンクに成功したとする。なお今回の観測運用により得られた画像は、JAXAより公開された。

  • MBCの観測運用結果の詳細

    MBCの観測運用結果の詳細(C)JAXA(出所:JAXA)

なお今後については、西側を向いているために電力を発生していない太陽電池パネルに光が当たるようになれば、電力発生が回復しSLIMの運用が再開できる可能性があるとのこと。月での日没を迎える2月1日までの探査機運用再開を想定して準備を行っているとする。

坂井氏は、今回技術実証に至らなかった2段階着陸ダイナミクスを含め、「SLIMで開発された工学技術については整理して、今後のミッションへの継承に備える」と語った。

  • JAXA 宇宙科学研究所の坂井真一郎氏

    SLIM月面着陸降下運用結果の詳細について語った坂井真一郎氏