東北大学、立命館大学、京都大学(京大)、東京大学(東大)の4者は1月22日、小惑星リュウグウ試料の岩石粒子表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、同小惑星表面に宇宙の小さなダストが衝突してできた大きさ5~20μm程度の溶融物を複数発見したことを共同で発表した。
さらに、その溶融物の3次元CT観察や化学組成分析を行った結果、衝突した彗星由来のダストとリュウグウの表面物質が高温で融けて混ざり合うことで生成したことが判明したことも併せて発表された。
同成果は、東北大大学院 理学研究科 地学専攻の松本恵助教、同・中村智樹教授、立命館大 総合科学技術研究機構の土山明教授、東大大学院 理学系研究科 宇宙惑星科学機構/地球惑星科学専攻の橘省吾教授らを中心とした共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する「Science」系のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。
小惑星の表面には大気がないため、地球上のような風化はもちろん起きないが、太陽から吹き出す超音速のプラズマ流である太陽風の直接的な照射を受け、彗星や小惑星に起源を持つ惑星間ダスト(宇宙塵)が降り注ぐなど、化学組成などの特徴が変化させられる。このような現象は「宇宙風化」と呼ばれる。宇宙風化を受けたリュウグウ試料を調べることで、地球近傍に飛来したダストの素性について手掛かりを得ることが可能だという。そこで今回の研究では、リュウグウ試料の詳細な観察を行ったとする。
そして走査型電子顕微鏡による観察の結果、リュウグウ表面に小さなダストが衝突してできた大きさ5~20μm程度の溶融物が複数発見された。次に、3次元CT観察や化学組成分析を行った結果、その溶融物は主にケイ酸塩ガラスでできており、ガラス内には小さな球状の硫化鉄粒子や気泡が含まれていたという。溶融物が、リュウグウの主成分である含水ケイ酸塩鉱物と彗星由来のダストが混ざりあった化学組成であることが突き止められたのである。このことは、溶融物は彗星由来のダストが、リュウグウの表面に衝突することで生成されたことを示すとのことだ。
彗星由来のダストがリュウグウに衝突すると、表面の物質と衝突したダストが高温に加熱され、融けて混ざり合う。リュウグウの主な構成物質である含水ケイ酸塩鉱物中の水は、高温に加熱されると蒸発して水蒸気が発生する。融けたリュウグウ表面物質と彗星由来のダストの混合物は、急激に冷やされてガラスとなって固まり、この時にガラス内に水蒸気の気泡が閉じ込められるとのこと。今回発見された溶融物は、このようなプロセスで形成されたと考えられるとしている。
彗星は太陽系外縁の低温領域で形成され、生命の材料となり得る有機物を多く含んでいる。今回発見された溶融物内には、そのような有機物の融け残りと考えられる炭素質物質が含まれていることも確認された。同物質は、スポンジのように小さな穴が開いていて、彗星由来のダストに含まれている有機物とよく似た外見をしているが、窒素や酸素をほとんど含んでおらず、有機物とは化学的な特徴が異なっているという。研究チームではこれらの事実から、リュウグウに彗星由来のダストが衝突した時、ダスト内に含まれていた有機物が高温に加熱されることで、窒素や酸素が揮発して失われ、今回発見された炭素質物質を形成したと考えているとする。
これまでのリュウグウ試料の研究で、そのごく表面を覆う薄い窒化四鉄(Fe4N)の層が確認されているが、その窒素成分は宇宙からリュウグウ表面にもたらされたと考えられている。これらの窒素成分は、彗星由来のダストが衝突した際にダスト内の有機物から放出され、リュウグウに供給された可能性があるという。
これまでの試料の分析結果を踏まえると、今回突き止められたリュウグウ表面への彗星由来のダストの衝突現象は、現在から約500万年前までの間に起こったと推測された。リュウグウが誕生したのは太陽系外縁だが、ダストの衝突は、リュウグウがすでに現在と同じ地球近傍軌道まで移動してきて以降に起こったものとのこと。これら太陽系の遠方から地球近傍に飛来する彗星由来のダストは、小惑星に衝突した際に表面物質の特徴を変化させるだけではなく、地球に生命の材料となる有機物をもたらした可能性がある。
今回調べられた溶融物の数はわずかだが、今後、より多くの溶融物が発見されれば、さらに分析が進むことが考えられる。研究チームは今後の分析の結果、太陽系外縁などから地球近傍領域に対し、どのような物質がどれくらいの量もたらされたのかが明らかになっていくことが期待されるとしている。