ElevationSpaceは1月9日、2025年に打ち上げを予定している宇宙環境利用・回収プラットフォーム「ELS-R」の初号機「あおば」の回収カプセル部分について、試験用モデルである熱構造モデル(STM)を製作し、独自開発の保持開放機構を用いたサイドパネル展開試験に成功したことを発表した。
無人衛星での実験成果を地球に持ち帰ることを目指すElevationSpace
国際宇宙ステーション(ISS)が存在するような高度2000km以下の地球低軌道(LEO)は、アクセスや物資補給・回収が比較的容易で、宇宙環境利用のための貴重な場であり、アルテミス計画をはじめとした月以遠への活動にあたって必要となる技術の獲得・実証の場としても利用することが、日本政府から発表された「宇宙基本計画」において明言されている。
しかし、ISSは基礎科学的な実験から産業利用まで幅広く利用されてきたものの、最初期のモジュールは20世紀末に打ち上げられるなど、建設開始から半世紀を経ており構造寿命の関係から2030年に運用を終了することが決定している。そのため、ISSの運用終了後も宇宙環境利用の場所を継続的に確保することが課題となっている。
そうした環境の変化を踏まえ同社は、ISSに代わる宇宙環境利用・回収プラットフォームとしてELS-Rの提供を目指し、2025年に初号機「あおば」の打ち上げを計画。ELS-Rは、無重力環境を生かした実証・実験を、無人の小型衛星で行い、それを地球に帰還させて顧客のもとに返すサービスを想定している。
このサービスの特徴としては、宇宙での実証・実験の場を提供するだけでなく、成果物を地球に帰還させ、宇宙で実証した材料やコンポーネントを地上でより詳細に解析できる点が挙げられるとする。しかし、ELS-R事業の実現には、回収カプセルを大気圏への再突入時に燃え尽きず、かつ内容物を損傷させずに地球に帰還させる「大気圏再突入・回収」技術が必要となるが、この技術を獲得している民間企業はほとんどないのだという。
大気圏への再突入ならびに回収ミッションを実現するためには、「軌道離脱推進技術」「再突入技術」「回収技術」の3つすべてを実現する必要があるところにあり、特に回収カプセルの外側を覆っている3枚のサイドパネルは、展開のタイミングがずれると降下中にカプセルが回転し、パラシュートを正常に開けなくなる可能性もあるため、高い精度で同時展開を実現する技術を獲得する必要があるとのこと。
回収カプセルの熱構造モデル(STM)で展開試験を実施
そこで今回、同社は回収カプセルの熱構造モデル(STM)を独自開発。構造設計面においては、2018年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)が成功させたISSからの物資回収ミッションである「HTV搭載小型回収カプセル(HSRC)」の知見を踏まえており、JAXAでHSRC開発を主導していた渡邉泰秀氏を技術顧問に迎え、開発を実施。また、回収カプセル内へのパラシュートやフローテーションバッグの収納試験も行い、構造的に問題がないことも確認したうえで同時展開に成功したという。
なお、「あおば」においては、HSRCと同様の円錐台形の形状や、HSRCで実証された熱防護材(アブレータ)を使用することで信頼性を担保しつつ、サイドパネル保持開放機構には独自技術を採用することで、低コスト化を実現したとしている。