東芝は、離れた場所に電力を無線で送ることができるマイクロ波遠隔給電システムにおいて、既存の5GHz帯の無線システムと共存しながら、狙った場所に給電ビームを制御して送ることができる干渉回避機能を搭載した「給電技術」と、受電アンテナの向きにかかわらず高効率に電力を受け取ることができる「受電技術」を開発したことを発表した。
IoT社会の電力問題を解決するマイクロ波遠隔給電システム
あらゆるものがネットワークにつながるIoT社会となり、産業機器に搭載されるセンサの数は今後さらに増加する見込みだが、IoTシステムの導入コストの削減や、センサにつながる電源ケーブルの断線によるライン停止の回避、センサの自由な配置や後付け可能性の確保などのためにセンサの無線化など、さまざまな要求も同時にでてきている。
そうした中で電池を使用した給電の場合、動作持続時間の制限や台数が増加した場合の充電・交換のメンテナンスコストの増加などといった課題があり、その解決方法として、マイクロ波を用いた遠隔給電が、完全ケーブルレスで製造現場を動かすことができ生産性を向上させることができるほか、バッテリーレスでカーボンニュートラルにも貢献できるなど、新たな給電方法として期待されるようになっている。
日本国内でもワイヤレス給電として2022年5月から、空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムとして920MHz、2.4GHz、5.7GHzという3つの周波数帯の利用が認められており、その中でも東芝は、もっとも大電力な給電が可能な周波数帯である5.7GHz帯を用いたマイクロ波遠隔給電システムの開発を進めてきており、今回、大きく分けて2つの新たな技術を開発したことを明らかにした。
東芝が開発したマイクロ波給電システムの「給電機」の特徴
1つ目の成果は、同じ空間内のほかの無線システムを独自構成で広帯域・高精度に検出し、給電ビームの切り替えや停波によって干渉を回避することで共存を可能にした「無線ハーモナイゼーション」を実現するビームフォーミング型のコンパクトな給電機を開発することに成功したという点だという。
マイクロ波遠隔給電システムに割り当てられている周波数帯は、無線LANと隣接しているため干渉による影響が特に課題となっていたという。この問題に対し、千鳥配置を採用した64素子のアレイアンテナを活用し、マイクロ波のビームを高精度に制御し、5GHz帯の無線信号を検出した場合、給電する方向を任意に変更することで無線LANに干渉することなく給電できることを実証したとする。
また、増幅器、位相器、信号処理機能を一体化しつつ、外形寸法を25cm×40cmとコンパクトにしたことで天井などに設置することが可能となり、工場やプラントなどで広く使われている無線LANと共存することで通信・給電の両面でセンサの完全なワイヤレス化を実現でき、生産現場の効率のさらなる向上が期待できるとしている。
東芝が開発したマイクロ波給電システム「受電機」の特徴
2つ目の成果は、独自の偏波合成技術によって偏波の方向が異なる水平偏波と垂直偏波、2つの電波を同時に受信することを可能とし、従来比2倍のエネルギーを回収する受電機を開発することに成功した点だという。
マイクロ波遠隔給電システムにおいて効率良く受電するためには、給電機から送られる偏波と呼ばれる電磁界の変動方向を合わせる必要がある。従来、受電機の設置の仕方(アンテナの向き)を変えると受電できないという課題があったものの、今回開発された受電機は、水平偏波と垂直偏波の2種類の電波を受信しした後に合成することで、受電機アンテナの設置位置や方向に左右されず、偏波角がずれても効率よく受電することを可能としたとする。
実際に、1.5m離れた場所に設置した受電機に対して給電を行い、開発した受電機のアンテナの角度を回転させた際の平均受電電力において、垂直偏波もしくは水平偏波のどちらかのアンテナで受電できる電力の平均値と比べ、約2倍受電できることが実証されたとのこと。
東芝は今後、工場や倉庫など実際の現場での実証を進める予定であるとし、実証で得られた技術課題を解決していき、法整備の動向も踏まえながら2025年以降の事業化を目指したいとしている。