東京工業大学(東工大)は6月19日、従来の4分の1以下の重量となる「フレキシブル液晶ポリマー(LCP)基板」を用いた宇宙展開型フェーズドアレイ無線機の開発に成功したことを発表した。

  • 展開型フェーズドアレイ無線機のコンセプト。

    展開型フェーズドアレイ無線機のコンセプト。(出所:東工大プレスリリースPDF)

同成果は、東工大 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の白根篤史准教授、東工大 工学院 電気電子系の岡田健一教授、東工大 機械系の坂本啓准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、6月11日から16日まで米・カリフォルニアで開催された国際会議「International Microwave Symposium 2023」にて口頭発表された。

世界人口の3分の1は、未だインターネットに接続できない状況にある。その課題を解決できる手段として、衛星コンステレーションが期待されているが、通信網の整備に向けてはさらに多くの通信衛星をより低コストで打ち上げる必要がある。すでに4000機以上が打ち上げられているSpaceXのStarlink衛星は重量が約200kgあり、打ち上げコストが高いという。コスト低減に向けてさらなる小型・軽量化を実現するためには、打ち上げ時にはアンテナを折り畳んでおき、軌道投入後に大きく展開するような無線機の実現が必須とされている。

展開型無線機はこれまでも提案されてきたが、展開後の平面性を保つためにリジッド基板を用いる無線機がほとんどだった。しかしリジッド基板を用いた展開型無線機では、無線機自体が厚くなるため重量が重くなり、折り畳んだ際の収納率も低くなってしまうという課題があったとする。

それに対し、薄いフレキシブル基板を用いることができれば、折り曲げ構造を作りやすくなる。しかしフレキシブル基板は多層化することが難しく、高密度化が困難だった。仮に多層化を実現できたとしても、基板が厚くなり、折り曲げづらくなってしまうという課題を想定されていたという。

そこで研究チームは今回、独自に開発したCMOS無線ICチップを、厚さの異なる層構成を持つLCP基板上に搭載することで、柔らかく折り曲げ可能なフェーズドアレイ無線機の実現を目指したとする。

今回の無線機のLCP基板には、基板が厚い6層構成の領域と薄い2層構成の領域があり、厚い領域にアンテナや無線ICを搭載。薄い領域には、高周波の伝送線路などの配線を通す構成が採用された。これにより、フェーズドアレイ無線機の求める多層構成による高密度化と、宇宙展開構造の求める柔らかく折り曲げやすい形状という、2つの条件を両立させることが可能となったとのことだ。