TSMCが熊本県でのJASM第2工場(TSMC社内ではFab23 Phase2と呼ばれている)の建設に加えて、阿蘇くまもと空港近くに第3工場(TSMC Fab 23 Phase3)の建設を検討していると、台湾の複数サプライチェーン情報として、台湾ハイテクメディア「科技網(DigiTimes)」が報じている

それによると、熊本市内とJASM第1工場がある工業団地を結ぶ道路は、朝晩ともに深刻な交通渋滞に見舞われており、解決のめどが立っていないことから、TSMCは交通インフラの問題を避けることができる空港近くの立地を検討している模様だという。ただしTSMCは、「現在、第2工場の最終検討をしている段階で、第3工場に関して公表できる情報は何もない」と述べるにとどまっているという。

日本進出にTSMCが前向きな理由

台湾のサプライチェーン関係者によると、TSMCが日本進出に前向きな理由は大きく3つあるという。1つ目は、TSMCの最大顧客であるAppleが、CMOSイメージセンサのサプライヤ(ソニー)に対する全面的支援をTSMCに求めたため。2つ目は、日本が強みを持つ半導体材料に関する研究開発能力の向上と、そうした日本企業からの材料供給の確保に向け、長年にわたって日本の材料メーカーと関係性を構築してきたため。そして3つ目は、日本政府による工場建設のための補助金がTSMCの条件を満たしているため、だという。

また、台湾の半導体サプライチェーン関係者からは、「Appleの要求や車載向けに加えて、日本は非シリコン半導体(SiC、GaNなど)、通信、AI、量子コンピューティングなどのより高度な革新的技術の開発が進んでいる」と指摘する声もあり、AI半導体だけでも相当な需要が見込まれるとしているほか、技術的に立ち遅れておりTSMCの支援が必要とされる地域であると分析する向きもある。

TSMCと日本政府の当初の合意では、サプライチェーン協力において日本企業を優先するものとされていたが、最近になってTSMCはコストや技術力、厳格な検証などを考慮し、台湾のパートナーを熊本に呼ぶ形でサプライチェーンを構築しようとしている模様で、台湾の製造業者の中には、「日本政府はTSMCが日本に成熟プロセスから最先端プロセスに至る、少なくとも4つの工場を設立することを期待しており、TSMCが日本により多くの生産能力を持てば持つほど、多くの台湾系サプライチェーンを誘致できるようになる」と期待する声もあるという。

米国でもいずれ第3・第4工場の建設を計画か?

米国アリゾナ州で建設が進むTSMCの米国第1工場・第2工場(TSMC Fab21 Phase 1&2)はそれぞれ4nmと3nmプロセスを採用する予定だが、それぞれ2025年および2026年の量産開始が計画されている。また、すでにアリゾナ州の広大な土地をTSMCが確保していることもあり、最近、台湾サプライチェーン関係者の間からは、TSMCが第3および第4工場の建設も計画しているのではないか、という噂が流れるようになってきたという。米国政府はCHIPS法を活用して、半導体の前工程から後工程まで一貫した米国でのエコシステム構築を目指しており、そうした確保してある土地にて、TSMCとしても前工程工場ではなく、2.5/3Dパッケージング工程を担当する工場を建設する可能性も指摘されている。