米国政府は10月17日(米国時間)、2022年10月に導入した先端半導体の対中輸出規制強化を目的に、中国政府が軍事強化のために米国の最先端技術を入手するのを阻止するためにNVIDIAをはじめとした米国企業が設計・製造・販売している人工知能(AI)向け半導体の中国への輸出を第三国からの再輸出を含めて事実上全面禁止する措置を商務省産業安全保障局(Department of Commerce, Bureau of Industry and Security:BIS)を通して発表した。米国官報に掲載された30日後に発効する。
今回の措置では、中国へのAI半導体を再販する可能性がある40余りの国への輸出も規制対象とすることで、中国が第三国を迂回してそれらの半導体を入手する抜け穴を封じるとともに、先端コンピューティングチップの開発に関与して米国の国家安全保障と外交政策上の利益に反する活動に従事していることが判明した中国の2つの組織とその子会社(合計13の組織)がエンティティリストに追加される。いずれも元NVIDIAの社員が関わっている企業とみられる。
BISが発行した書類には、今後の規制強化対象となるAI半導体の具体的な名称は記載されていないが、ほぼすべてのAI半導体が対象となるものと思われる。
レモンド米商務長官は「新たな措置は2022年10月に発表された規制の抜け穴を塞ぐことで中国の軍事用途に不可欠なAIや高度なコンピュータの飛躍的進歩に拍車をかける可能性のある高度な半導体への中国のアクセスを制限するものであり、米政権は中国政府に対し経済的打撃を与えようとしているのではない」と強調している。これに対して、米国の中国大使館や中国の外務省は、今回の措置に断固反対すると表明し、米国は貿易と技術に対して政治的な目的のために恣意的に制限を設けたり、強制的にデカップリングを求めたりすることは、市場経済と公正な競争の原則に反し、国際経済と貿易秩序を損なうと主張している。
主なAI半導体サプライヤであるNVIDIAをはじめ、IntelやAMDが主要メンバーとして名を連ねている米国半導体工業会(SIA)は、今回の新たな輸出規制の発表に対する事実上反対する声明を公表している。SIAは従来から自由貿易による公平な競争を主張する立場から、米国政府の輸出規制をけん制してきた。今回の声明も米国政府の措置により、米国企業のAI半導体の売り上げが減少し、業績悪化による損害が発生することを懸念したものとなる。
なお、SIAの声明文を簡単に翻訳したものは以下の通り。
「SIAでは、米国の半導体産業に対する最新の輸出規制の影響評価を進めている。我々は国家安全保障を守る必要性を認識しており、健全な米国半導体産業を維持することがその目標を達成するために不可欠な要素であると信じているが、過度に広範で一方的な規制は、海外の顧客が米国製ではない半導体の購入を奨励することになるため、国家安全保障を促進することなく米国の半導体エコシステムに損害を与える危険性がある。したがって、我々は政府に対し、すべての企業に平等な競争条件を確保するために同盟国との連携を強化するよう要請する」