気候変動への対応、特にCO2排出の削減に向けてあらゆる分野でのエレクトロニクス化が進められている。中でもアナログ半導体は電力効率の向上に関わる部分で、太陽光発電や風力を中心とした再生可能エネルギーで生み出された電力を効率よく活用するために重要な役割を担うようになっている。

Texas Instruments(TI)の製品群も「高電圧の電力変換」、「電圧/電流センシング」、「エッジセンシング/通信」、「バッテリマネジメント」といった4つの分野を中心に、そうした再生可能エネルギー分野で活用されていると、同社グリッド インフラ事業部のゼネラルマネージャを務めるHenrik Mannesson氏は自社の製品ポートフォリオの現状を説明する。

  • TIがエネルギーインフラ分野として注力する4つの領域

    TIがエネルギーインフラ分野として注力する4つの領域 (資料提供:TI)

高電圧で電力変換を行うことにより、従来以上の高効率化やシステムの小型化などのメリットを得られることができるようになる。そのためには、絶縁型ゲートドライバなどのアナログ半導体に加え、そうしたアナログ半導体をコントロールするマイコン/プロセッサなどが必要となるが、同社ではその両方を提供している点で強みがあるとする。また、そうしたマイコンやプロセッサのようなデジタル半導体はエッジ処理や通信といった領域でも活用されており、同社では単なる発電そのものを高効率化するのみならず、発電や電力を消費する際に必要となる電力のコントロールまで、幅広い領域をカバーしていることも強みだともしている。

太陽光発電においては高電圧での発電時における電力管理と発電された電力の貯蔵が重要となってくるほか、発電状況と電気自動車(EV)との接続性などさまざまな要因を担保する必要がある。「半導体のイノベーションは再生可能エネルギーの変革への移行で重要となっている。特に太陽光発電におけるマイクロインバータ(パネルごとに取り付け、直流から交流に変換するインバータ)は住宅領域での活用も可能であり、その活用の推進に期待がかかっている。TIとしては高電圧用のみならず、中電圧用の変換デバイスも提供しており、変換効率の高さが重要ということでSiCやGaN技術も活用している。また、そうして生み出された電力を効率よく蓄える蓄電池システムも重要になってくるが、そこでも重要になってくるのは高い電力密度と変換効率の高いDC/DCコンバータやAC/DC、DC/ACコンバータの存在であり、この電力の出し入れに伴う直流と交流の変換の損失をいかに抑えるか、および蓄えられている電力の細かなコントロールのためのバッテリマネジメントシステムであり、TIはその両方を提供している。このバッテリの残量の詳細な把握の必要性はEVも同様であり、効果的な充放電を実現するために非常に重要な役割を担う存在になっている」と同氏はエレクトロニクス化の進展における電力変換の高効率化と、その電力の効率的な活用の重要性を強調する。

  • 太陽光発電領域における半導体に対する技術的チャレンジの例

    太陽光発電領域における半導体に対する技術的チャレンジの例 (資料提供:TI)

  • 発電された電力を蓄えておく蓄電池領域における半導体の技術的チャレンジの例

    発電された電力を蓄えておく蓄電池領域における半導体の技術的チャレンジの例 (資料提供:TI)

  • スマートホーム領域における半導体の技術的チャレンジの例

    スマートホーム領域における半導体の技術的チャレンジの例 (資料提供:TI)

  • EV領域における半導体の技術的チャレンジの例

    EV領域における半導体の技術的チャレンジの例 (資料提供:TI)

また、その電力を使用するユーザーが、実際にどの程度の電力を蓄えているのか、消費しているのかを把握することを可能とする“見える化”の実現も重要になってくる。そのためにはさまざまなシステムのインテリジェンス化、ネットワーク化、リアルタイム性の向上などが求められることとなり、同氏は高性能な処理能力を有するプロセッサを活用する必要があるとし、TIでもそうしたニーズに対応できる低消費電力かつ高性能なマイコンの提供を目指しているとするほか、ローレベルでの開発を可能とする環境整備や開発容易化を可能とするリファレンスデザインの提供などを推進しているという。

  • TIのエネルギー領域に対する取り組み例

    TIのエネルギー領域に対する取り組み例 (資料提供:TI)

なお、同氏は「産業革命以降、エネルギーの大量消費が可能になったが、その大半が化石燃料に由来するものであった。しかし、地球全体の気候変動に対応するためには化石燃料の消費を抑える必要がある。その一方で、人間が経済活動を継続していくことも必要で、そのためには新たなエネルギー源の活用が求められることになる。その中心となるのが太陽電池(太陽光発電システム)だと考えられている。また、自動車も内燃機関からEVへのシフトを加速させており、今後、その勢いをさらに増すためにも電力の効率的な利用、そしてエネルギー供給網との高度な接続が重要になる。持続可能な社会の実現は企業、政府、個人すべての領域で求められており、それは半導体の進化にも求められる状況となっている。TIとしては、この流れに期待しており、注力する4つの領域を中心にアナログならびにデジタル半導体を幅広く提供しつつ、それらの性能を向上させていくことに加え、SiCやGaNなどといった新素材/技術の活用も進めている。今後も顧客が開発を加速させていけるよう、リファレンスデザインや開発環境の容易化なども進めていくことで、より持続可能な社会を世界的に実現していくための支援をしていくことが使命だと思っている。2016年から担当しているが、当時は太陽光発電市場はそこまで大きくなかった。しかし、近年、世界的な潮流となり、急速に市場を拡大し、高性能な半導体にも注目が集まるようになっている。そうした市場をTIが支援していくことは、半導体企業としての事業成長のみならず、ひいては持続可能な社会につながることが期待される」と、自分の担当領域である電力インフラ分野が自社の事業拡大の役割のみならず、それが結果的に世界的な持続可能な社会の実現につながることを強調していた。