米Oracleは9月21日まで米ラスベガスで年次イベント「Oracle CloudWorld 2023」を開催している。同社CEOのSafra Catz氏は基調講演で、Uber Technologiesなどの顧客企業を招き、イノベーションのマインドセットと技術の活用によって実現したDX(デジタルトランスフォーメーション)の成功事例を示した。

  • 「Oracle CloudWorld 2023」の基調講演に登壇した米Oracle CEO Safra Catz氏

19日、Oracle CloudWorldの幕開けとなる基調講演のステージに立ったCatz氏は、顧客、パートナー、そして従業員への「ありがとう」という言葉から講演をスタートした。「顧客の成功のために、顧客を中心にした企業へと変革を図ってきた」とKatz氏。

Katz氏は「適切な技術と適切なマインドセットがあれば、何が実現できるかを見せたい」として、Oracle Cloudを活用してDXを遂げた5人の顧客を紹介した。

初の黒字を達成したUber、成長と収益性のバランスを語る

最初にステージに招いたのは、ライドシェアのUber TechnologiesのCEO、Dara Khosrowshahi氏だ。同氏はスキャンダルを受けて退任に追い込まれた創業者の後任として、2017年にCEOに就任した。

  • Uber Technologies CEO Dara Khosrowshahi氏

それから6年が経過、最新の決算(2023年第2四半期)で初の黒字を達成。ライドシェア、食事などのデリバリーなど乗車の合計数は20億回に達した。「Uberはトランスフォーメーションを進めてきた。その結果、今は全く違う企業になった」とKhosrowshahi氏は胸を張った。

Uberの目標は成長を維持すること、そして成長と収益性の両立だ。「20%以上の成長を維持するには、年間15億回の乗車が必要」とし、エジプトで開始した「Uber Bus」、小売店向けのデリバリーソリューション「Uber Direct」などの新サービスが紹介された。

Uber DirectはAppleをはじめ、3500のブランドが利用しているという。「企業の成長にはイノベーションが必要。新しい製品の開発を続け、起業家精神を保ち続けなければならない」(Khosrowshahi氏)

Khosrowshahi氏によると、Uberでは従業員に自社サービスを利用するだけでなく、運転や配送を行うことを奨励しているという。Khosrowshahi氏自身も、ライドシェアの運転をすることがあるそうだ。

ライドシェアで構築したプラットフォームの活用において、最も成功しているのが「Uber Eats」だろう。Khosrowshahi氏がCEOに就任した当時、Uber Eatsの売り上げは全体の5%に過ぎなかったが、現在はライドシェアと同規模に拡大。Uber Eatsをはじめとした“モノのトランスポーテーション”事業は現在、150億ドル事業に成長した。

ビジネスの成長を支えているのがOracleのクラウドだ。OracleとUberは今年2月、クラウドで7年間の戦略的な提携を締結した。この提携の下、Uberは重要なワークロードの一部をOCIに移行する。

また、ライドシェアのバイク版である「Uber Moto」は、予想を上回る成長を遂げた。「事業がどのようにスケールするのか予測するのは不可能」とKhosrowshahi氏。そこで、バックエンドのモダン化を測ることで、成長に合わせてインフラを柔軟に拡張できるようになったという。

2社は会期中、「Collect and Receive」としてOracle Retailプラットフォームをベースとした新サービスを発表した。小売業は事前統合されたAPIを利用してUber Directにアクセスし、即日配達、定期配送、返品などができるという。同日、米国とカナダのOracle Retail顧客向けに提供を開始した。

ブラジル大手キャリアのTIM Brasil、MicrosoftとOracleの提携を活用

続いて、オペレーション全体を一気にクラウドに移行している事例として登場したのが、ブラジルの大手通信企業、TIM BrasilのCTO、Leonardo Capdeville氏だ。

  • TIM Brasi のCTO Leonardo Capdeville氏

6200万人の顧客を持つTIM Brasilが、オペレーションを全てクラウドベースにするという決断を下したのは2020年、コロナ禍が世界を襲った頃だ。TIM Brasilはイタリアの大手通信事業者TIMのブラジル子会社となるが、ちょうど地元のテレコム事業を取得する段階でもあった。

「先が見えない状況ではあったが、将来を考えた時、次の3年で企業は重要かつ変革的な時期に差し掛かると考えた」とCapdeville氏。ちょうど5Gの準備を検討する時期でもあり、投資のためには健全な財務バランスシートが必要だった。「勇気を出して進化し、技術を自由に変えるという決断を下した」(Capdeville氏)

3年後、買収は無事に完了し6000人の加入者を移行、資産も統合した。さらには、ブラジル初の5Gサービス提供も実現した。同時に、「ITインフラのTCOを30%削減した」とCapdeville氏は胸を張った。これらすべてを実現したイネーブラーがクラウドだという。

加えて、CRMの応答時間は50%以上短縮、SAPの性能が改善するなど、主要システムの性能も改善したとのことだ。

TIM Brasilは、OracleとMicrosoftのクラウド相互運用の提携のメリットも享受している。クラウド事業者の選定時にそれぞれ得意分野があると気がついたが、2社の提携について知り、「これは助かったと思った」という。実現すれば、どちらかを選ぶ必要はなくなり、用途に適したクラウドを使うことができるからだ。

Capdeville氏はこれまでの取り組みを振り返り、「クラウドに移行することで、自由を手に入れることができた。データセンターについて心配することから解放された。組織をデータドリブンにでき、AIを活用することに集中できるようになった」と述べる。

これを受けてCatz氏は、「クラウドのスケールメリットを獲得することで、事業の拡大に必要な弾力性、可用性が得られる」と述べた。