東京大学(東大)は9月1日、環境発電の一種で、周囲の音(音響エネルギー)を利用して発電する超薄型音力発電素子を開発し、同素子として世界最高レベルの電力密度(8.2W/m2)を達成したことを発表した。
同成果は、東大大学院 工学系研究科のOsman Goni Nayeem特任研究員(研究当時)、同・李成薫講師、同・横田知之准教授、同・染谷隆夫教授らの研究チームによるもの。詳細は、先端テクノロジーに関する基礎から応用までを扱う学術誌「Device」に掲載された。
昨今普及が広がるウェアラブル機器やIoT用センサなどの電源としては、長期間の利用を可能にするため交換不要なタイプが望まれている。それを実現できる技術として期待されているのが、周囲の環境に存在する微小なエネルギーを電力に変換する環境発電技術だ。
環境発電といってもいくつかの種類があるが、音響エネルギーを用いた発電は、光や温度などを用いたエネルギー源に比べ、季節や地域の気候変動の影響を受けにくいというメリットがあり、持続的な電力源にできる可能性がある。これまでの研究で提案された音響発電としては、圧電材料を用いた発電床システムや、特定の周波数を持つ音響エネルギーを共鳴させて増幅できる立体的な構造を持つ音力発電素子などがあった。
しかし、薄型で高効率な音力発電素子を実現することは困難であるとされている。その理由は、一般的に電力変換効率を向上させるために用いられる立体的な構造などを薄い素子に持たせることや、音による振動を増幅させるための微細な穴などの構造を薄型素子に加工することなどが、技術的に困難だからだ。さらに、薄型素子は従来の厚い素子と比べて、同じ音であっても変形が大きくなってしまうため、薄さと耐久性を両立するという点でも課題を抱えていた。
そこで研究チームは今回、電界紡糸法によって形成した複数のナノファイバーシートを積層することで、超薄型(50μm以下)のナノメッシュ音力発電素子を開発したという。
今回開発された発電素子は、圧電材料である「ポリフッ化ビニリデン」(PVDF)のナノファイバーシートを、2層のナノファイバー電極シートで挟むことで形成されている。ナノファイバーシートは、ファイバー径が数百nmの多数のファイバーから形成されているため、シート上に多数の微細な穴がある構造を持つ。
またすべての層に通気性があり、音による空気の振動が圧電材料であるPVDFナノファイバーシートに直接伝わるため、平らな基板の上に製造される従来の薄型発電素子よりも、環境音を用いて大きな電力を生み出すことが可能だという。そして、PVDFナノファイバーシートのファイバーを一方向に配向させることで、115dBの音源に対して、この分野では世界最高レベルの電力密度である8.2W/m2の実現に成功したとする。
今回開発された音力発電素子は、周辺からの環境音を高効率で電力に変換することが可能だ。実際、開発されたセンサをマスクに貼り付け、会話の音や周辺からの音楽を電力に変換することで、LEDを光らせることに成功したという。さらに研究チームは、温湿度センサと組み合わせることで、環境の温度と湿度を計測し、無線でデータを転送するセンサシステムの電力源として使用できることも確認したとしており、今後、IoTやウェアラブル機器へのさまざまな音を用いた電力供給が期待されるとしている。