近畿大学(近大)は8月25日、数値シミュレーションを用いて、海王星以遠の4つに大別できる「遠方カイパーベルト天体」(TNO)の特性を再現することに成功し、太陽系外縁部に未発見の第9惑星(以下「惑星X」)が存在する可能性を示したことを発表した。
同成果は、近大 総合社会学部 総合社会学科社会・マスメディア系専攻のソフィア・リカフィカ・パトリック准教授、国立天文台 天文シミュレーションプロジェクトの伊藤孝士講師らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。
太陽から約30天文単位(au)離れた海王星軌道のさらに外側、約50au(約75億km)以遠に位置するTNOの中には、最も影響力のある海王星など、4つの巨大惑星だけでは説明できない軌道の偏りがあるものが観測されている。その偏りを説明できる仮説の1つとして、カイパーベルト領域に惑星Xが存在しており、重力摂動で影響を与えているというものがある。
遠方のTNOは、以下のような4つの特性を持つ可能性が指摘されている。
- 海王星との平均運動共鳴に捕獲された、始原的であり安定した共鳴TNOの集団
- 海王星の重力の影響が及ばない位置に軌道を持ち、近日点距離が40auを超える離脱TNOの集団
- 45度以上の高い軌道傾斜角(地球などの惑星の公転面は太陽の赤道にほぼ沿っているが、それに対し冥王星のように斜めの軌道を持つこと)を持つTNOの集団
- 準惑星候補の小惑星セドナ(近日点約76au~遠日点961au、公転周期1万1809年)のように説明の難しい特異な軌道を持つ極端なTNOの集団
しかし、従来のカイパーベルトおよび太陽系形成モデルでは、これらの特徴を一括して説明することはできなかったとのこと。そこで研究チームは今回、シミュレーションを用いて、惑星Xが遠方カイパーベルトの形成に与える影響を調べたという。
まず、太陽系形成から約46億年後の遠方カイパーベルトをシミュレーションで再現した後、その結果について、遠方のTNO集団の比率や、現在知られている極端な軌道を持つTNOとの比較が行われた。また、太陽系大規模観測のシミュレータを用いて、作成されたシミュレーション結果に観測的なバイアスを与え、観測結果と直接比較できるようにしたとする。そして検証の結果、4つの巨大惑星のみを考慮した標準的モデルが、分離TNO、高い軌道傾斜角を持つTNO、そして極端なTNOのいずれも説明できないことが実証されたとしている。
次に、惑星Xを含むモデルを用い、観測結果との比較を行った結果、シミュレーションとほぼ一致することが判明。惑星Xを含むモデルは、遠方カイパーベルトの4集団を説明でき、さらに同惑星による摂動が、太陽系形成以降の海王星以遠領域の軌道構造に影響を与えてきたことも示唆したとする。
そしてTNOの特性を説明するために、必要となる惑星Xの性質が分析され、以下の特徴が導き出された。
- 遠方のカイパーベルトに数十億年安定して存在する共鳴TNOを説明するため、約200au以遠に位置する必要がある
- 離脱TNOを説明するため、距離約200au~約300au、約200au~約500au、約200au~約800auのいずれかの離心軌道で進化する必要がある
- 高い軌道傾斜角を持つTNOを説明するため、質量が地球の約1.5倍を超え、軌道が約30度傾いている必要がある
- セドナを含む、極端なTNOを説明するために、上記の性質を持つ地球的な惑星が必要である
このような惑星Xがあれば、太陽系内を逆行する軌道を持つTNOや、彗星の源となるような遠方で高い軌道傾斜角を持つ天体も説明可能となるという。
このことから、地球の約1.5倍~約3倍の質量を持ち、太陽から約200au~約500auまたは約200au~約800au以内に位置し、約30度の傾斜軌道を持つ惑星Xがあれば、TNOの4集団について説明できることが明らかにされた。
また、惑星Xによる摂動は、海王星による重力散乱を強く受けるTNOのように、50auを超えた距離にある他の天体の形成を阻害しないことから、今回作成されたモデルは遠方のカイパーベルトの分布を説明でき、現代の観測結果と矛盾するものではないことも確認されたとする。
今回の研究成果は、近日点距離が大きい、もしくは大きな軌道傾斜角を持つ未知のTNO集団が、約100auを超える領域に存在し得ることも示唆しているとのこと。こうしたTNO集団は、惑星Xの存在を観測的に検証する際の指標となり得るという。研究チームは今後、惑星Xや未知のTNO集団などの軌道構造をより詳細に明らかにすることで、太陽系外縁部での惑星の形成や太陽系全体の進化についても、より深い理解が得られることが期待されるとしている。