次に、成膜された極性構造を有する超格子試料を細線形状に微細加工し、電流源と電圧計を用いた測定配置で端子電気抵抗が測定された。その際、超格子面内かつ電流と直交する方向に外部磁場を印加し、強磁性体であるFeに由来する磁化の方向を変化させながら、電気抵抗の直流電流依存性が調査された。
その結果、この超格子では超伝導と強磁性が共存するだけでなく、超格子の臨界電流密度が磁化と印加電流の方向によって異なり、超伝導体中で生成される電子対であるクーパー対に作用する交換相互作用とスピン軌道相互作用を顕在化させることによって、磁化の角度に依存した巨大な非相反な臨界電流密度(非相反臨界電流密度)を観測することに成功したとする。
また、この巨大な非相反臨界電流密度を利用することによって、ゼロ磁場において超伝導-常伝導スイッチングを実証することにも成功。この時、ゼロ磁場における臨界電流に対する非相反臨界電流の比で定義される効率は40%を超えており、さらに超伝導ダイオード効果の符号と大きさを磁化制御することにも成功したという。
今回の研究成果により、超伝導ダイオード効果の制御指針に加え、エネルギー非散逸かつ方向制御可能な電子回路の確立に向け、新たな知見と可能性が提示されたとしている。
非対称な積層構造は、最も身近に空間反転対称性を破ることのできる手法の1つであり、ナノメートルオーダーの強磁性体、超伝導体、重金属を繰り返し積層させた多元素超格子では、さまざまな元素の機能を複合化することが可能だ。このような超格子では、これまで多元素の合金で課題となっていた組成の不均一性の問題もなく、膜厚、積層回数、積層順序、構成元素などの自由度の高さを活かした物質設計が実現されるという。
研究チームは今後、今回の研究で得られた知見を発展させることで、超低消費電力の新しい不揮発性メモリや論理回路への応用の観点から、新しい物質の探索やデバイス応用が行われることが考えられるとしている。