TSMCが7月20日に開催した2023年第2四半期決算説明会では、同社の幹部が社会情勢などを含めた現在の同社の見方の説明が行われた。

TSMC副社長兼最高財務責任者(CFO)のWendell Huang氏によると、2023年の設備投資予算については320億ドルから360億ドルの範囲の下限に近づくと予想しているという。また、2023年の減価償却費に関しては主に3nmプロセスの強化により、前年比20%半ばの増加と予想だとしている。設備投資の主な内訳は、先端プロセス装置が70~80%で成熟プロセス装置が10~20%、残りをパッケージング装置としている。

TSMC社長兼最高経営責任者(CEO)のC.C.Wei氏は、AI半導体の売上高のついて触れ、学習および推論向けCPU、GPU、AIアクセラレータと定義されるサーバAIプロセッサの売り上げは、全体の約6%であると説明したほか、今後5年間で50%近い年平均成長率で成長し続け、全売上の10%台前半を占めるまで規模を拡大するとの予測を述べており、成長のけん引役として動向を注意深く見守っていくとしている。

また、3nm(N3)プロセスについては、PPA(Power/Performance /Area:消費電力、演算性能、チップ面積)技術とトランジスタ技術の両方において最先端の半導体技術であるにも関わらず、すでに良好な歩留りで量産されていると説明。需要も堅調で、HPCおよびスマートフォン(スマホ)の両方から注目されており、2023年下半期にはN3の生産量が大幅に増加することも見込んでおり、2023年通期のウェハ総売り上げの1桁半ばの割合にまで伸びることが期待されるとしている。さらに、改良型のN3Eについても、すでに顧客認定に合格し、性能と歩留まり目標も達成し済みで、2023年第4四半期からの量産開始を予定しているとのことで、今後も3nmプロセスの継続的な強化により、同社にとって3nm製品群が大規模かつ長期間提供可能なノードになるとの見方を示している。

加えて、2nm(N2)プロセスについても、2025年の量産開始に向けて順調に進んでいることをアピール。同社初のGAA構造を採用するほか、N2プラットフォームの一部として、HPC向けに背面電源レールソリューションを備えたバージョンも開発を進めており、背面電源レールにより、従来N2比で10%〜12%の速度向上と10%〜15%のロジック密度の向上が実現するとしている。2025年後半より同技術の提供を開始し、2026年からの量産開始を目指すとしている。ただし、同氏は2nmプロセスの製造拠点については、高雄工場の可能性を含めてまったく言及していない。

TSMC会長のMark Liu氏は、建設中の米国アリゾナ工場に触れ、アリゾナ工場は、2021年4月より建設を開始したが、先端半導体向け製造装置の設置に必要な専門知識を備えた米国における熟練作業員が不足しており、台湾から技術者を派遣するなどして対応を進めているが、予定している4nm(N4)プロセスの生産スケジュールは2025年に延期される見込みであることを説明した。

米国の業界関係者情報によると、近郊にIntelの巨大半導体工場があることなどもあり、現地での技術者雇用にTSMCは苦戦している模様である。

また、日本の熊本工場(JASM)については、28/22nmおよび16/22nmの特殊プロセス(Specialty Technology)向けとして建設しており、2024年末までに量産を開始する計画は順調であるとしているほか、欧州については顧客やパートナーと協力して、顧客からの需要と独政府の支援に基づいて、自動車固有の技術に焦点を当てた専門工場のドイツでの建設を評価・検討中で、まだ最終決定には至っていないとしている。

さらに中国の南京工場については、現地顧客のサポートに向けた計画のとおり、従来からの16nmプロセスに加えて車載向け28nmプロセスの拡張を進めていき、継続してすべての規則と規制の遵守を図っていくとしている。

同氏は台湾外の工場について、製造コストの観点から初期コストは台湾工場よりも高くなると指摘。その理由として、「工場規模が小さいこと」、「サプライチェーン全体でのコストの上昇」、「台湾の成熟したエコシステムと比較して海外サイトの半導体エコシステムは初期段階にあること」などを挙げており、このコストギャップを縮小するために、今後も日米欧の各政府と緊密に連携し、さらなる経済的支援(=補助金)の確保を図っていくことを目指すとしつつ、TSMCとして掲げている長期的な業績目標の達成を目指すとしている。

かつてC.C.Wei CEOは「熊本の第2工場建設は、日本政府の理にかなった補助金次第」と述べていたが、海外工場の高コスト化は、各国政府の補助金で埋め合わせ、株主に向けてコミットしている粗利率やROEの実現を目指す方向性のようである。