全研本社は6月9日、中小企業のIT人材の賃上げに関するアンケート調査の結果を公表した。同調査は中小企業の経営者を対象に実施したもので、200件の回答を得ている。業種は建設業、製造、卸売・小売、不動産、サービス、情報通信、金融・保険、宿泊など。

調査の結果、物価の上昇が続いている中ではあるが、既存のIT人材の賃上げを考えているとする回答が65%に達したという。同社が以前に実施した調査の結果では、「自社にIT人材がいない」と回答している中小企業経営者も70%に達しており、有能なIT人材の離職を防ぐために賃上げに積極的な姿勢が見られている。

同社はこの結果について、マクロ経済の状況が背景にあると推測している。日本では円安による輸入物価の上昇や資源価格の上昇などの影響で物価高が続いている。そうした中、企業においても賃上げ圧力が強まっており、今年の春闘では約30年ぶりの平均賃上げ率となった。人材の獲得競争の激化と足元の物価高が要因となり、企業の賃上げを促している様子がうかがえる。

  • 既存のIT人材の賃上げを考えている経営者が65%に (資料:全研本社)

    既存のIT人材の賃上げを考えている経営者が65%に (資料:全研本社)

IT人材の賃上げを考えているという企業に対し、前年比での賃上げの程度を聞くと、「10%以上」とする回答が30.8%で最も多かった。「2%以上4%未満」(28.2%)、「4%以上6%未満」(15.4%)が後に続いた。なお、2022年度の消費者物価指数の前年度比上昇率は3%であり、10%の賃上げはこれを大幅に上回る。

一方で、「0%超~2%未満」との回答が12.8%である上、調査全体の35%はそもそも「賃上げを考えていない」と回答しており、輸入物価や原材料価格の上昇が続く中で「賃上げをしたくてもできない」という企業も多いことから、賃金の高い企業に有能な人材が流出する可能性も考えられるとのことだ。

  • 10%以上の賃上げを考えている企業が最も多かったようだ (資料:全研本社)

    10%以上の賃上げを考えている企業が最も多かったようだ (資料:全研本社)

国立社会保障・人口問題研究所は4月に長期的な日本の人口を予測した「将来推計人口」を公表したが、これによると、2056年に人口が1億人を下回り、2070年には総人口が現在の1億2600万人から3割減となる8700万人となる予想だ。さらには、15~64歳の生産年齢人口は2070年に4535万人と、現在と比べて4割も減る試算だ。

国内企業は世界的にDX(デジタルトランスフォーメーション)やIT化が遅れているとされ、特に中小企業は大企業に比べて生産性が低いとされている。IT人材の確保の必要性は高まる一方であり、人材確保に向けた賃上げの流れは今後も続く可能性が高い。同社によると、国内の人手不足を受けて、インドやベトナムなど海外のIT人材を獲得しようとする動きもさらに強まる見込みとのことだ。

  • 日本での就職を希望するインドの学生

    日本での就職を希望するインドの学生