詳細な分析で見えたホームラン増加の証拠

またホームラン数に大きく影響するのが、球場と試合の条件だ。ドームとオープン球場では、オープン型のほうが気温の影響を強く受ける。また、1日の中で気温が最も高くなるのは午後早い時間のため、気温が飛球に影響するのはデイゲームの場合でナイトゲームでは影響が小さい。Retrosheetデータベースには、デイゲームとナイトゲームの区別はもちろん、格納式のドームを備えた球場の場合は“開閉どちらだったのか”という点まで記録されている。

この分析によって、条件の違いを調整してもオープン球場かつデイゲームだった場合はホームラン数が増えやすいという傾向が見えてきた。ドームのない球場で行われる野球の試合当日の日中の最高気温が1度上昇すると、その試合のホームラン数は1.96%増加する。この影響はデイゲームで最も大きくなり、ナイトゲームでは影響が小さくなるという。

  • Statcastが記録した2019年のホームランダービー。

    Statcastが記録した2019年のホームランダービー。(Photo Credit:MLB)

ただし、気温とホームラン数増加に関連があるとしても、それだけでは空気の密度が原因とは限らない。暑さでピッチャーが消耗して、打たれやすくなるという可能性もあるからだ。そこで研究チームは、MLBのスタジアムに設置されたカメラシステム「Statcast」からのデータを分析。この分析では、2015年から2019年までの全飛球の高解像度追跡データを使用して、打ち出し角度や打球のデータを整えているといい、さらに投手と打者のスキルの条件を一定に揃え、同じ角度と速度でバットから離れるボールを比較できるようになった。そうすれば、ホームラン確率の変化を考えるにあたって、気温の高い日と低い日、つまり空気密度のメカニズムだけを検討できるようになるのだ。そして分析の結果として、気温が1度上昇すると、ホームランの確率が0.16%高くなることがわかった。

これからのMLBはどうなっていく?

この傾向に温暖化に関する予測を当てはめると、ホームラン増加に対して何の対策も打たない場合、2050年までに年間ホームラン数は192本増加、2100年までになると467本増加することになるという。現在からほぼ10%の増加だ。ホームランは試合の華とはいえ、あまりにも増えすぎるとゲームの印象は大きく変わってしまうだろう。

  • MLB30球団の本拠地で、平均温度が上昇した場合の1年ごとのホームラン増加数予測。

    MLB30球団の本拠地で、平均温度が上昇した場合の1年ごとのホームラン増加数予測。(Credit:Christopher Callahan)

またホームラン増加の度合いは球場によっても異なる。上図は、世界の平均気温が1.5度、2度、3度、4度と上昇した場合の、1年ごとの全米の球場のホームラン増加数をまとめたもの。最も影響が大きいのはイリノイ州シカゴにあるシカゴ・カブスの本拠地「リグレー・フィールド」で、続くはミシガン州デトロイトに位置するデトロイト・タイガースの本拠地「コメリカ・パーク」だ。

反対に影響が最も小さいのは、フロリダ州セントピーターズバーグにあるタンパベイ・レイズの本拠地「トロピカーナ・フィールド」で、これはドーム型球場であることが関係しそうだ。同じく開閉式ドームを持つ、フロリダ州マイアミの「ローンデポ・パーク」(マイアミ・マーリンズの本拠地)も影響度が低い。ボストン・レッドソックスの本拠地でマサチューセッツ州ボストンの「フェンウェイ・パーク」とニューヨーク・ヤンキースの本拠地でニューヨーク州の「ヤンキー・スタジアム」はどちらもその中間程度だ。

一般にMLBのファンは、開放感を感じられるオープン型の球場を好むといわれるが、特にローンデポ・パークでは、マイアミの暑さと湿度のため開閉式ドームを閉じて試合が行われることが多いという。マイアミに続いてドームを閉じていることが多いテキサス州ヒューストンの「ミニッツメイド・パーク」(ヒューストン・アストロズ)は、ホームラン増加予測で低い方から3番目だ。こうしたことから、開閉式ドームを備えた球場では、天候に応じて暑さを和らげることがホームラン数の適度な抑制になると考えられている。あるいは、試合をデイゲームからナイトゲームにするだけでも効果がある。

快晴の空の元、開けた球場でホームランに歓声を上げる。野球はそうであってほしいと思う一方で、気候変動の影響は野球の楽しみ方にも及んできそうだ。