気候変動がMLBにもたらしつつある影響とは?

メジャーリーグ(MLB)において、地球温暖化による気温の上昇が試合の勝敗を左右する「気候変動の時代」がやってくるかもしれない。

米・ダートマス大学の研究チームは、1962年以降に行われたMLBの約10万試合と、そこで生まれた22万本以上のホームランを調査し、2010年~2019年に記録された500本のホームランは、気温が平均よりも高くなったときに発生していることを突き止めた。

アメリカ気象学会会報に掲載された「Global Warming, Home Runs, and the Future of America’s Pastime(地球温暖化、ホームラン、そしてアメリカの娯楽の未来)」という論文では、気温の上昇による空気密度の低下が飛球を飛びやすくし、ホームランにつながっているとしている。もしこのままホームラン本数を調整する対策をしなければ、MLB1シーズンあたりのホームラン数は95本増えることになり、2100年までにホームランは現在の10%以上も増える可能性があるという。

「本当に温暖化の影響なのか?」「用具の変化の結果では?」「球場の地理的条件は?」「選手個人の技術が向上したからでは?」といった疑問が、当然ながら生じるだろう。温暖化によるホームラン増加説は10年以上も米国で激論となっていた問題だ。今年2月に亡くなった元メジャーリーガーで殿堂入り解説者のティム・マッカーバー氏は、2012年にTV番組で「いずれ立証されると思うが、過去50年間の気候変動で空気が薄くなっているため、私の現役時代よりもボールはよく飛ぶ」と発言し、激しく批判された。しかし当時から、気象学者はマッカーバー氏の洞察を支持していた。

  • 近年のMLBにおけるホームラン数の増加。

    近年のMLBにおけるホームラン数の増加。(出所:「Preliminary Report of the Committee Studying Home Run Rates in MLB」)

2018年以降は、MLBコミッショナーによるMLBでのホームラン数増加の報告が公表されている。2019年の報告では、ホームラン数の明らかな増加を数値化した上で、「ボールのシームの高さの変化だけでは説明がつかない」と結論づけた。これだけでは温暖化の影響とはいえないが、同報告を受けた新たな研究が、いよいよホームラン数増加と温暖化の影響を裏付けたというわけだ。その武器となったのが、2015年からMLBの試合に導入された競技データシステム「Statcast」だ。

20世紀のホームラン数は増加傾向にあれども限定的

MLBが現在の公式試合数(年間162試合)になったのは1962年。ダートマス大学の研究チームは、ここから2019年までのMLB試合中の飛球と、米国の気象観測所の時間ごとのデータを提供する「HadISD」データベースをもとに分析した。ホームランは試合中にいつ発生するかわからない不定期のイベントだが、一定の確率で発生する。試合ごとの総ホームラン数と試合日の日中最高気温を関連付け、ポアソン回帰モデルによる予測を行ったというのが分析の骨子だ。

ただしホームランの発生には、選手の身体能力や球場の地理、設備面の条件など多くの要因が影響する。19世紀以来のMLB全試合のデータベース「Retrosheet」を元に分析すると、1960年代から1980年代にかけてはホームランは増加傾向にあるものの、増え方はそれほど大きくない。これは人為起源のエアロゾルの影響、つまり大気汚染のために温暖化というよりむしろ寒冷傾向だったためと考えられ、本塁打が明らかに多くなってきたのは1980年代以降だという。

1990年代には、現在よりも筋肉増強剤の規制が緩かったため、選手の身体増強が成績向上につながった可能性が指摘されている。ステロイド規制が強化されたのは2005年以降であり、この前後で影響を切り分ける必要がある。