NECは6月1日、同社の経営の方向性を発信することを目的に、複数のメディアを対象としたグループインタビューをオンラインで実施した。
インタビューには代表取締役 執行役員社長 兼 CEOの森田隆之氏が応じ、同社の生成AIの活用戦略やDX(デジタルトランスフォーメーション)関連事業の見通し、今後の事業体制などを語った。
生成AIを利用したビジネスユースのサービスを準備中
グループインタビューの冒頭では、昨今、ビジネス現場での活用について注目が集まるジェネレーティブAI(生成AI)に関する質問が挙がった。
2023年6月1日には、ライオンが自社開発した対話型生成AIをグループ社員5000人に向け公開したことを明らかにした。また、DellをはじめとしたさまざまなIT・システムベンダーが生成AIをはじめ、AIを自社の事業にどのように活用するのか、その戦略を発表している。
NECでは自社グループ社員を対象に2023年5月から社内専用のChatGPTの利用を開始した。同取り組みでは、専門家チームを設置して利用ルールを定めたうえで現在も検証を行う。併せて、自社開発した独自のAIも研究開発を継続しているという。
「AIはインターネットの登場に匹敵するくらい、社会のあらゆる領域に影響を及ぼすものと考える。当社は機械学習の難関国際学会の論文採択数がグローバルでTOP10に入るなど、AI領域のケイパビリティを有している。ビジネスユースで責任をもって生成AIを利用できるよう、さまざまな技術やサービスの準備を進めている。然るべきタイミングで発表を行いたいので、期待して欲しい」と森田氏は語った。
AIのビジネスユースにあたっては、デジタルトラストの観点での条件をクリアしているかどうかが問われる。
例えば、どういうデータを取得するか、取得したデータに基づき生成されたものをどのような用途で使うか、生成物が著作権や人権を侵さないかといった観点が重要になる。
同社では現在、誤情報や著作権についての課題、汎用性のあるAIと個別の環境で利用するAIの使い分け、日本語での利用などに対応したAI関連技術・サービスを準備しているという。
自社のDXノウハウを提供する「コアDX事業」に手応え
筆者は、NECが成長事業と位置付けるコアDX事業の見通しを聞いた。
森田氏は同事業について、2023年4月28日に開いた2022年度(2022年4月1日~2023年3月31日)の通期決算説明会で、2025年には売上収益5700億円、調整後営業利益750億円まで拡大させる目標を発表した(2022年度の実績は売上収益2401億円、調整後営業利益38億円)。
「数字だけ見ると難しく見えるかもしれないが、従来のようなプロジェクト単位でお客さまと付き合う人月商売のモデルから、戦略・アジェンダをともに解決する関係にシフトすることで達成できると考える。現在、DX関連の案件ではIT部門だけでなく、CEOクラスが興味深く話を聞いてくれるようになり手応えを感じている。当社がこれまで大きな取引がなかったお客さまとのビジネスも増えてきている」と森田氏は説明した。
コアDX事業を推進するうえでは、NEC自体が取り組んできたDXの経験が生きているという。例えば、商談・契約管理領域からビジネスプロセスを変えてデータを標準化し、データドリブン経営を進めたいという企業のニーズに対して、NECは基幹システムのSAP S/4HANAへの刷新や経営ダッシュボードの導入、グループ横断で連結損益の可視化など、実体験を伴ったノウハウを提供できるそうだ。
自社のDXの過程で、NECはSAPやマイクロソフト、AWS(Amazon Web Services)とのグローバルアライアンスに基づいて技術的な開発リソースの提供を受けているほか、ServiceNowが社内で実験中の技術を活用するなど、最新の技術知見を得ている点も強みだという。
「お客さまがモダナイゼーションやDXを実践していくための実験台に当社がなり、最先端の技術でお客さまの課題を解決する。製造も販売も手掛け、ハードウェア・ソフトウェア・サービスも扱っている当社だからこそ、さまざまなビジネス形態への対応が語れるはずだ」(森田氏)
NECは「社会の変革をリードする仕掛けに取り組む会社」
DXに関連して、話題はITサービスを推進する事業体制に及んだ。NECは2023年度から組織体制を変更し、ビジネスユニットの統合・再編を行った。
また、経営上の開示セグメントも変更して、「社会公共」「社会基盤」「エンタープライズ」「ネットワークサービス」「グローバル」の5セグメントから、「ITサービス」「社会インフラ」の2セグメントの区分に変更した。
ITサービスセグメントで重要な動向としては、すべてのエンジニアリング・テクノロジーリソースをデジタルプラットフォームビジネスユニットに集結したことで、重複開発が起こりにくい体制になったことだという。
「ITサービス、社会インフラという緩やかな枠を設けたことで、ビジネス面でのリソース配分について、ビジネスユニットを越えた対応も行いやすくなった。全社で調整しなくても、お互いに合意すればスムーズに進められる体制になっている。中期経営計画を実行するうえで、組織をこの先3年間は変更するつもりはない」と森田氏は断言した。
インタビューでは最後に、「NECのビジネスにおける代名詞は何か?」という質問が挙がった。これに対して、森田氏は「社会の変革をリードする仕掛けに取り組む会社」と答えた。
テクノロジーの社会実装の一環として、NECではステークホルダーとの共創活動や情報発信、実効性の高い提言を行う「ソートリーダーシップ活動」を続けている。例えば、スマートシティの分野では自治体への提言とともに、信号機に5G基地局を設置して信号機の集中制御を行うなど、交通インフラの高度化を目指した技術実証にも取り組む。
森田氏は、「社会の変革をリードするためには、当社そのものがしっかりと業績を上げていることが重要だ。社内では売上成長ではなく、利益成長を求めるよう伝えている。通信、海底・宇宙のような防衛産業、仮想化基盤などのITなど、あらゆる領域の技術を有するのが当社であり、経済安全保障を含めた国の基幹産業にとって欠かすことのできない機能を今後も果たし続ける」と述べた。