三菱電機は、メディアや証券アナリスト、機関投資家を対象にした「IR Day 2023」を開催。そのなかで、半導体・デバイス事業について説明した。
2023年4月から社長直轄となった半導体・デバイス事業本部
三菱電機の漆間啓社長 CEOは、「2023年4月から、半導体・デバイス事業本部を社長直轄の事業本部とした。半導体デバイスの安定的な供給によって、各BA(ビジネスエリア)の成長を支えることを目指す。同時に、パワーデバイスへの戦略的な投資により、成長を牽引することになる」とし、「半導体・デバイス事業は、三菱電機の4つの重点成長事業のひとつであり、折り返し点を迎えた中期経営計画のなかでは、FAシステムとともに最もうまく行っている事業である。なかでも、パワーデバイスでは、グローバルトップクラスのパワーモジュールを有しており、当社の強みと市場ニーズが合致する部分にリソースを集中していく。具体的には、SiCの市場拡大を見据えた積極投資を行い、サプライヤーとの戦略的提携を通じて成長基盤を強化し、事業の拡大を加速する」と述べた。
半導体・デバイス事業の2022年度実績は、売上高が前年比17%増の2815億円、営業利益率は10.4%となっており、2025年度には売上高3000億円、営業利益率12%を目指している。そのうちパワーデバイスの2022年度実績は、売上高が前年比17%増の2100億円、営業利益率が8.4%だが、2025年度には売上高が2400億円以上、営業利益率は10%以上と、高い成長を見込んでいる。
また、SiCパワーデバイスの生産に関しては、約1000億円を投じる新工場棟の建設を決定。2021年度から2025年度までの累計設備投資を、従来計画の倍増となる約2600億円に引き上げており、「強みを持つSiCを核とした成長基盤の強化に取り組むとともに、既存シリコン製品を含めて事業の成長を加速していく」(三菱電機 上席執行役員 半導体・デバイス事業本部長の竹見政義氏)としている。
三菱電機において、成長を牽引する役割を担う事業であることを改めて強調した格好だ。
三菱電機の半導体・デバイス事業は、パワーデバイスと高周波・光デバイスで構成する。
三菱電機の竹見事業本部長は、「パワーデバイスと高周波・光デバイスは、いずれもグローバルで高いシェアを持つ製品群を数多く保有している強い事業であり、トップクラスの技術や製品力、顧客とのつながりを持つ。持続可能な社会の実現に向けて不可欠なキーデバイスを提供している」としながら、「カーボンニュートラルを実現するパワーデバイスは、効率的な電力制御およびモーター制御に向けて技術の進化を追求。性能、品質のさらなる向上を図り、あらゆる機器の省エネ化を実現し、脱炭素社会に貢献する。また、安心、安全、快適な暮らしを支える高周波・光デバイスでは、コアコンピタンスである化合物半導体技術を様々な用途に応用し、5G通信やデータセンターなどの通信分野のほか、防犯・見守り、空調システムに応用されるセンシング分野をターゲットとして製品を提供している。これからも化合物半導体の特性を生かした新たな価値を創出していきたい」とする。
特に、パワーデバイスでは、自動車分野における電動化の進展などを背景にSiCに注力。Si(シリコン)と比較して、大幅な電力損失の削減が可能なメリットを生かすという。また、民生分野ではトップシェアを堅持することも目指すという。
「パワーモジュールは全世界で1兆円の市場規模になることが見込まれるが、この分野においては世界第2位の実績を持ち、なかでも民生用インテリジェントパワーモジュールでは世界1位、電鉄用フルSiCモジュールでも世界1位となっている。今後は、SiCをはじめとしたワイドバンドギャップ半導体への広がりが期待されており、高周波・光デバイスで培ってきた化合物半導体技術やノウハウを、パワーデバイスに応用することが可能であり、さらに強い製品を生み出せる」と自信をみせた。
また、高周波・光デバイスでは、5G通信の普及拡大や大容量通信、AIといったトレンドを捉えた提案を推進。データセンター内の超高速通信環境でトップポジションを獲得している光デバイスを主力としながら、5G基地局向けのGaNデバイスにも力を注ぐという。
「高度な化合物半導体技術で実績を持ち、高性能、高品質なデバイスで、様々な市場に、幅広く受け入れられている点が強みである」とする。
同社では、パワーデバイスおよび高周波・光デバイスはいずれも、研究開発部門による先進基盤技術や生産技術を活用したり、三菱電機グループ内の様々な事業で半導体を利用している強みを生かした製品開発や市場開発に取り組む考えを示しており、「三菱電機グループが持つ多様なリソースとのシナジーを発揮し、最先端のキーデバイスを市場に提供していくことが最大の強みになる」と述べた。
SiCパワー半導体を軸に成長を目指す
パワーデバイスの成長戦略については、時間を割いて説明した。
パワーデバイスでは、産業、再エネ、電鉄分野を事業のベースとし、高い成長が見込まれる自動車分野と、三菱電機が強みを持つ民生分野を、成長ドライバーに位置づけ、製品、生産、販売のさらなる強化を図るという。
製品の標準化や共通化を推進するとともに、戦略製品の拡大により、製品ポートフォリオ変革を推進。生産効率が高い広島県福山市の福山工場の生産拡大や、シリコンウェハの12インチ化により、収益力を強化。次の成長に向けた事業基盤の構築に取り組む姿勢をみせた。
また、強い技術を保有しているSiCを成長の中核に置き、自動車向け製品の開発、次世代化の加速、グローバルでの拡販強化に加えて、米Coherentと8インチSiC基板の共同開発での協業を先ごろ発表。将来に向けて、調達面での体制も強化する。
さらに、「三菱電機は、1990年代から、SiCモジュールの開発に着手し、世界初のルームエアコンへの搭載、高速鉄道への搭載を実現している。自動車では、Siを含めて累計2600万台への販売実績を持つ。エピやプロセスなどでの高度な化合物半導体技術、独自のトレンチ型SiC-MOSFETによる世界最高水準の低損失化を実現するチップ技術、小型化および軽量化を実現する業界をリードするモジュール技術を持つ。強固な技術基盤とトップクラスの顧客基盤を生かし、幅広い分野に競争力が高いSiCモジュールを提供することでGXの実現に貢献していきたい」と述べた。
また、生産体制については、、2026年4月には、熊本県菊池市(泗水)に、SiCの8インチウェハによる新工場を稼働。前工程を担う熊本県合志市のSiCの6インチウェハを生産する既存ラインの強化も含めて、2026年度には、SiCの生産能力を現在の約5倍に拡大する計画だ。
熊本県菊池市のSiCの8インチウェハ新工場棟では、クリーンルームに最先端の空調システムである旋回流誘引型成層空調システム(TCR-SWIT)を導入するほか、徹底した廃熱回収を行うことにより、従来方式に比べて約30%の省エネ化を実現。自動搬送システムの採による省人化も進め、設備稼働率の向上を図るという。
さらに新工場の稼働に向けて、米Coherentとの提携が重要になることを指摘。「8インチのサンプル基板を使って、エピ、プロセスなどの評価結果をフィードバックすることになる。8インチ基板の開発を素早く行い、2026年度からの新工場の稼働時に使用する基板をしっかりと確保していく」とした。
また、Siでは、福山工場において、12インチの生産ラインを2024年度から稼働。8インチの生産効率化を進め、2025年度には約2倍の生産能力に高める。
さらに、後工程でも約100億円を投資。開発・設計拠点でもある福岡県福岡市において、点在していたラインを集約する新工場棟を建設。後工程の生産能力も増強するとともに、設計、開発から、量産時の生産技術検証を一貫した体制で構築することで、リードタイムの短縮や、製品競争力の強化につなげる考えだ。
「2025年度までの5年間の累計設備投資額は、当初計画の倍増となる約2600億円となるが、2026年度以降も、SiCのさらなる事業拡大に向けて、同等以上の積極的な投資を続けたい。また、市場拡大を見据え、2030年度には、パワーデバイスにおけるSiCの売上比率は30%以上を目指すことになる」とした。
また、「社会のDX、GXの実現に不可欠なキーデバイスの提供を通じて、、三菱電機グループの統合ソリューションをコンポーネントから強化していく。半導体を使う立場であるとことを生かし、そこからも知見を取り込み、顧客目線で付加価値が高いデバイスの開発を続けていく」などと語った。
なお、パワーデバイスについては、国内企業による再編に関する議論が一部にあるが、三菱電機の漆間社長 CEOは、「三菱電機は、SiCパワーモジュールをベースとした事業を展開しており、この事業をグローバルレベルに引き上げたい。競合他社を意識しながら、成長していく上で、取るべき選択肢はなにかを注視しながらやっている。いまは、やるべきことをやっており、なにが正しいのかということは、走りながら考えていく」と述べた。