横浜国立大学(横国大)は5月2日、初期地球大気を想定した二酸化炭素(CO2)・窒素・水蒸気に微量のメタンを加えた混合気体に高エネルギー陽子線を照射したところ、アミノ酸やカルボン酸が多く生成することを見出したと発表した。
同成果は、横国大大学院 理工学府の小林憲正名誉教授、同・癸生川陽子准教授、中部大学の河村公隆客員教授、米国航空宇宙局(NASA) ゴダード宇宙飛行センターのウラディーミル・アイラペティアン博士らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、生命科学の基礎分野を扱うオープンアクセスジャーナル「Life」に掲載された。
ヒトを含めた地球の生命は、多種多様なタンパク質で構成されており、その最小単位といえるのがアミノ酸だ。これらは地球上で合成された可能性もあるが、宇宙においても発見されており、どこでどのように生成されたのかについては、長く議論が続いている。ただし近年は、CO2や窒素を主成分とする初期地球の大気においてアミノ酸などは生成されにくく限定的であり、隕石などにより地球外から持ち込まれたものが主であると考えられていた。
そうした中で近年の観測では、太陽に似た恒星が、フレアを伴う激しい活動により大量の高エネルギー粒子を放出していることがわかってきた。このことから、若い太陽もまた激しい活動を起こしていた可能性が高いことが推測されている。そこで研究チームは今回そうした結果をもとに、太陽から放出された高エネルギー粒子が、初期地球の大気から有機物をどのくらい生成できるのかを調べる実験を行ったという。なお同実験は、東京工業大学にあるタンデム加速器を用いて実施された。
初期地球の大気を模したガスは、CO2と窒素を主成分とし、これに水蒸気と少量のメタンを加えたものが用いられた。これまでの実験で、このようなガスからは、初期地球上での有機物生成に重要だと考えられてきた放電(雷)や紫外線では、アミノ酸はほとんどできなかったことがわかっている。しかし、加速器からの陽子線を照射した時には、メタンがCO2の1/100ほどしか存在しなくてもアミノ酸が生成可能であること、および多様なカルボン酸も生成することが確認されたとする。
今回の研究により、初期地球上で太陽エネルギー粒子により生じたアミノ酸は、隕石などによってもたらされたアミノ酸よりもはるかに多かったことが示唆された。現在、大型の太陽フレアによってコロナ質量放出が発生し、それが運悪く地球圏を直撃した場合は、人工衛星や地上の発電・送電設備の故障など、インフラに大きなダメージを与えることが危惧されている。しかし研究チームは、初期地球においては、激しい太陽フレアは生命の誕生を促したものだった可能性が考えられるとしている。
太陽フレアが初期地球に与えた影響は、アミノ酸などの有機物を太陽に生成させたことのほかにもさまざまなものが考えられるという。たとえば、若い太陽は現在よりも暗く、初期地球は凍り付いていたはずだとする「暗い太陽のパラドックス」を解決する可能性もある。また、太陽エネルギー粒子により一酸化二窒素などの強力な温暖化ガスが生成されることで、地球の凍結が防がれた可能性が示唆されている。研究チームは今後、そのような可能性も実験により検証していきたいとした。