日本の宇宙スタートアップ企業「ispace」による月面着陸が、いよいよ4月26日未明に行われる。この世界初の民間月面着陸への挑戦を目前に控えた24日、同社は事前説明会を開催。着陸運用の詳細について、同社CTOの氏家亮氏がプレスからの質問に答えた。月面への降下は26日0時40分ころから開始し、その約1時間後に軟着陸する計画だ。

  • 月面に着陸したランダーのイメージCG

    月面に着陸したランダーのイメージCG (C)ispace

ispaceは、同社が初めて開発したランダーの打ち上げを、2022年12月11日に実施した。ランダーはその後、順調に飛行を続け、3月21日には、月を周回する楕円軌道への投入に成功。そこから遠月点の高度を下げる運用を2回行い、4月13日、高度約100kmの円軌道への投入が完了し、残るは着陸のみ、という段階まで来ていた。

着陸予定地点は、月の北半球にある「Mare Frigoris」だ。ランダーは26日0時40分ころ、そのちょうど裏側を飛行しているあたりで、着陸シーケンスを開始。まず、機体底部にある主推進系(400N×1基と200N×6基)による減速マヌーバを数10秒程度実施し、近月点が高度20~25km程度となる楕円軌道に投入する。

  • 着陸シーケンスの流れ

    着陸シーケンスの流れ。開始から着陸までは、約1時間の予定だ (C)ispace

近月点付近までの約40分は、RCSによる姿勢制御のみを行いながら降下。近月点付近まで来たら、そこで主推進系を再点火し、最後の減速を開始する。地表との相対速度を落としながら、徐々に姿勢を垂直に立てて行き、高度2km付近で、水平方向の相対速度はゼロに、姿勢は垂直になる予定だ。

ここからの最終降下フェーズでは、垂直に接近する。月面に十分近づいたら、地表からの跳ね返りを避けるため、中央の400Nスラスタはオフにして、周囲の200Nスラスタのみで姿勢と速度を維持しながら降下を継続。最後は数m/s以下のゆっくりした速度で月面に接触し、その衝撃を着陸脚が吸収する、という流れになる。

ランダーは降下中も通信を行っており、異常なく着陸できていれば、「数十秒で分かる」(氏家CTO)という。しばらく通信ができるようなら、そこで着陸成功となり、同社の10段階のマイルストーンのうち、サクセス9が達成。その後、ランダーの各種状態まで確認した上で、「安定状態の確立」であるサクセス10を宣言する。

  • 同社が定義した10段階のマイルストーン

    同社が定義した10段階のマイルストーン。すでに8番目まで達成した (C)ispace

氏家CTOは、「ここまで、軌道制御のマヌーバはかなりの回数をこなしている。直近の円軌道への投入では、10分弱の燃焼も経験しており、自信を深めてきている」とコメント。その一方で、「ただ、降下を開始してからは1回しかないチャンスになるので、緊張感を持って見ていきたい」と、気を引き締めた。

着陸場所は、Mare FrigorisにあるAtlasクレーターの外側になるという。ランダーの着陸精度は数kmオーダー。ランダーには、真下の地形を見るセンサーなどは搭載していないが、着陸地点は平坦で凹凸も少ない場所を選定しており、着陸精度の範囲内の位置であれば、問題は無いということだ。

ランダーは、降下中もカメラでの撮影を行う。リアルタイムで見ることはできないものの、着陸後、ハイゲインアンテナが使えるようになってから、地球に送信する予定。どんな画像が届くのか、非常に楽しみなところだ。

  • 今回、初めて公開された画像

    今回、初めて公開された画像。4月20日に撮影したもので、地球上に日食の影が映っている (C)ispace

今回の「HAKUTO-R」ミッション1では、ドバイの「Rashid」と宇宙航空研究開発機構(JAXA)/タカラトミーらの「SORA-Q」という、2台のローバーをランダーに搭載している。着陸後、いつ月面に降ろすのかという点については具体的な回答を控えたものの、着陸後すぐに展開するようなことはないということだ。

なお、バックアップの着陸地点は3カ所あり、もし0時40分までに何らかの問題が発生して降下を中止しても、再チャレンジが可能だ。そのときは、着陸地点を順次西側に変更し、4月26日夜、5月1日、5月3日に着陸を行う。すべてをキャンセルしても、月は28日で1回転するので、そこでまた最初の地点に挑戦できる。

  • 緑点が現在の着陸地点

    緑点が現在の着陸地点。順次、赤色のバックアップ地点に切り替える (C)ispace

月面での運用は、最大12日間を予定している。今回使用する「シリーズ1」ランダーには越夜の機能はないため、運用の最後で、電波を出さないようにするコマンドを送る。バッテリが凍るため、2週間の長い夜のあと、電力は復活しない見込みだが、もし電源が入ったとしても、電波を出さないので分からないという。

ispaceは、この月面着陸をライブ配信する予定。ちょっと夜遅くの時間帯になってしまうが、もし成功すれば、地球以外の天体に初めて民間が着陸するという、世界的な快挙になる。ぜひこの世紀の一瞬に立ち会ってみてはいかがだろうか(※日付を跨いで26日になるが、感覚としては25日深夜なので時間を間違えないよう注意)。

【公式LIVE配信】HAKUTO-R ミッション1 着陸発表会