ナフタレン骨格が繰り返しつらなった化合物は「リレン」と呼ばれ、ナノグラフェンの中でも有機電子材料として魅力的であることが知られている。
しかしこのリレンは、高い平面性による分子間相互作用が強いために有機溶媒にまったく溶けず、一般的な有機合成法で合成困難な化合物として知られている。そのため、有機溶媒に溶けるように分子間の凝集を抑える目的でアルキル置換基などをあらかじめ導入しておく必要があり、これまで純粋な無置換のクインテリレンの合成は達成されていなかったという。
今回クインテリレンの合成に成功したことから、"有機溶媒に溶かして反応させ、生成物を有機溶媒に溶かして単離精製する"といった従来の有機合成化学的なアプローチでは合成困難だった巨大なナノグラフェンに対し、今回の手法が画期的で効果的な次世代の合成手法の1つとなることが予想されるとする。
今回開発されたリチウムメカノケミカル脱水素環化反応は、非常に単純な操作、安全で実用性の高い手法でありながら、クインテリレンをはじめとしてこれまで合成困難だったさまざまなナノグラフェンの合成に展開できることが確かめられた。
また、リチウムだけでなくコスト面で優れた金属ナトリウムが利用可能なことや、使用する溶媒量が従来の250分の1程度に減らせること、短時間・室温・空気中で大量合成が可能である点も、合成化学的・化学工業的な観点、環境調和型合成やコストの観点から大変魅力的だとする。脱水素環化反応は、世界中の合成化学者がナノグラフェン合成に必ず利用するといっても過言ではないほど重要な反応の1つだ。研究チームは今後、今回開発された反応が広く普及し、未踏ナノグラフェンの合成研究やナノグラフェンの安価な大量供給につながることが期待されるとしている。