約9か月にわたって、宇宙から地球を見守ってきたアマビエが、江島神社に帰ってきた。
4月7日、神奈川県の江島神社では、「アマビエ奉納奉告祭」が執り行われた。奉納されたのは、アマビエが描かれたアルミ板。その表面は、四角い形に黄色く日焼けしているように見える。
実はこのアマビエ像、地上からの高度約400kmの宇宙空間を、秒速約7.9km(時速約2万8000km)という速さで、約9か月もの間飛び回っていた。それも、宇宙空間に直接曝露された状態で。
なぜアルミ板に描かれたアマビエは、宇宙に曝露された状態で飛び回っていたのか。そこには、「宇宙を開放する」という想いのもとで行われる一大プロジェクトがある。
物品を宇宙空間へと届けて持ち帰る「スペースデリバリープロジェクト」
さまざまな団体から集まった品々をロケットに搭載し、国際宇宙ステーション(ISS)に向けて打ち上げ、その搭載品を宇宙空間に曝露したのちに地球に帰還させる「スペースデリバリープロジェクト -RETURN to EARTH-」をご存じだろうか。
宇宙商社のSpace BDが手掛けるこのプロジェクト。その第1弾の打ち上げが、2022年2月に実施された。国内外の10団体から集められた研究用素材や写真、イラストといった品々を搭載したロケットの打ち上げは無事に完了し、搭載品はその後ISSに到達。その後、ISSの日本実験棟「きぼう」の船外実験プラットフォームにおいて、宇宙空間への曝露が行われた。
ISSの船外で、宇宙線や紫外線を浴びながら約9か月の宇宙空間を飛び回った搭載品たちは、若田光一宇宙飛行士による取り外し作業などを経て、帰還カプセルに搭載されて地球に帰還した。
疫病退散を願って宇宙へと送り出されたアマビエ
このプロジェクトの中で、さまざまな企業から集まった品々と共に、Space BDも物品を宇宙へと送り出した。記念品としての社員の名刺と並んで宇宙へと飛び立ったのが、アマビエ像だ。
アマビエは、江戸時代ごろ熊本県に現れたとされる半人半魚の妖怪で、疫病退散のご利益があるといわれる。そのご利益の内容から、昨今の新型コロナ感染拡大に対するお守りのような形で話題に挙がったことも、記憶に新しいかもしれない。2021年8月に始動したこのプロジェクトにおいても例外ではなく、世界中で疫病が猛威をふるう中、その終息を願って宇宙へと飛び立ち、地球全体を見守ってきた。
そして2023年1月、アマビエ像を含むプロジェクト搭載品が地球へと帰還した。そして米国航空宇宙局(NASA)や宇宙航空研究開発機構(JAXA)の検査を経て、Space BDのもとへアマビエ像が返却された。
これを受け4月7日には、神奈川県・江島神社にて「アマビエ奉納奉告祭」が執り行われた。江島神社では、スペースデリバリープロジェクトのロケット打ち上げ前にアマビエの祈願祭が行われており、今回はその旅路の報告へと訪れた形だ。