名古屋大学(名大)は4月6日、酸化物、グラフェン、窒化ホウ素などの二次元物質(ナノシート)を、1分程度の短時間で基板上に隙間なく配列して薄膜を作製する新技術「高速薄膜作製法」を開発したことを発表した。
同成果は、名大 未来材料・システム研究所の長田実教授、同・施越研究員らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学学会が刊行する材料と界面プロセスを扱う学術誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に掲載された。
グラフェン、六方晶窒化ホウ素、遷移金属カルコゲナイド(二硫化モリブデン(MoS2)や二硫化タングステン(WS2)など)などのナノシートとは、原子1層から数層という極薄のシート状物質のことをいう。高い電子・イオン移動度、高誘電性、透明性、高耐熱性など、従来のバルク材料(サイズがμm以上の大きさの結晶のこと)とは異なる機能の発現が期待されている。
こうした優れた機能を最大限に引き出してデバイス化するためには、ナノシートをさまざまな基板表面に稠密配列し、薄膜を作製することが重要だという。これまでの薄膜製造では「ラングミュア・ブロジェット法」などが適用されていたが、同手法は熟練した操作、複雑な条件設定が必要であることに加えて、1層の製膜に1時間程度を要し、ナノシート応用の大きなネックとなっていたという。そのため、これらの課題を解決しナノシートのデバイス開発や工業化を推進することを目指し、ナノシートの高品質稠密配列膜を簡便かつ短時間で実現する新プロセスの開発が強く望まれていた。
今回の研究では、新規製膜技術を検討する中で、自動ピペットを使って、酸化物、グラフェン、窒化ホウ素などのナノシートのコロイド水溶液を基板に1滴滴下した後、それを吸引するという簡便な操作により、短時間でナノシート同士が隙間なく稠密に自動的に配列させることを試みたとする。そして、実際に約1分という極めて短時間で稠密配列単層膜の自動製膜に成功したという。
そして、この自動製膜による最適製膜条件、製膜機構の検討を行ったところ、エタノールを1%~2%添加した希薄コロイド水溶液(濃度:0.02~0.05g/L)の利用が好適であり、コロイド水溶液の表面張力の低減、ナノシートの対流の促進により、ナノシート間の重なりや隙間の発生が抑えられ、効率的な配列制御が実現できることがわかった。さらに、稠密配列単層膜作製の操作を繰り返すことで、ナノシートの厚み単位で制御された多層膜のレイヤーバイレイヤー構築が可能であることも確認したとする。
研究チームによると、今回の技術は、酸化物、グラフェン、窒化ホウ素など、さまざまな組成、構造のナノシートに適用可能であり、かつさまざまな形状、サイズ、材質の基材上に製膜できることが確認できており、極めて汎用性の高い製膜技術だという。また今回の技術は、自動ピペットによる簡便な滴下・吸引操作を基盤としており、専門的な知識や技術の必要がなく、ワンクリックで、4インチのウェハサイズの大型製膜、少数ロットのオンデマンド自動製膜なども可能となるとしている。
また併せて、今回の手法は、簡便、短時間かつ少量の溶液で高品質稠密配列膜の大面積製膜を実現できるため、製造コストも大幅に削減でき、ナノシートの工業的な薄膜製作法、ナノコーティング法として重要な技術に発展するものと期待されるとしている。