東北大学と科学技術振興機構(JST)は10月14日、アルカリ溶液を用いた簡便な化学的手法で厚さ数ナノメートルの「スピン熱伝導物質」の開発に成功したことを発表した。

同成果は、東北大大学院 工学研究科 応用物理学専攻 藤原研究室の木下大也大学院生(研究当時)、同・寺門信明助教(研究当時・JSTさきがけ研究者兼任)、同・藤原巧教授、同・工学研究科 技術部の宮崎孝道博士、同・工学研究科 応用物理学専攻の川股隆行助教(現・東京電機大学准教授)らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の二次元物質に関する全般を扱う学術誌「npj 2D Materials and Applications」に掲載された。

ナノメートルサイズで集積化が進む電子デバイスにおいて、熱の蓄積や温度変動はデバイスの信頼性・パフォーマンスを低下させてしまう原因となる。その一方で、熱や温度差を貴重なエネルギー源とみなす動きもあり、そうした熱を効率よく逃がしつつ、再利用するために、素早く一様に排熱することに特化した既存の熱マネジメント材料に加えて、熱の流量を制御できる熱伝導可変材料の開発が求められているという。

そうした新材料開発に向けて研究チームでは、スピン熱伝導物質「La5Ca9Cu24O41(LCCO)」に注目してきたという。特殊な熱キャリアである「マグノン」を利用することで、LCCOの室温における熱伝導を高い状態(金属相当)と低い状態(ガラス相当)の間で電気的に制御することが可能と考えられている。

ただし、電気的制御が可能な領域は厚さ数nmの範囲に限られるため、薄膜合成や単結晶育成といった従来の作製法では試料の大部分が制御不可の領域で占められてしまい、熱流量の制御幅が低減してしまうことが課題だったという。そこで研究チームは今回、この課題を克服するためにLCCOのナノシート化に挑戦。ナノシート化することで、試料の厚さと制御可能な厚さをほぼ等しくし、熱流量を従来試料よりも広範囲にわたって制御できる構造を作製することを目指したという。