電気通信大学(電通大)、東京大学(東大)、茨城工業高等専門学校(茨城高専)、東北大学の4者は4月5日、室内発生世界最強の1000テスラ級電磁濃縮超強磁場発生装置を使い、600テスラの超強磁場下で結晶の伸縮の瞬間的な計測に成功し、遷移金属酸化物であるコバルト酸化物「LaCoO3」中の新しい磁気(スピン)超流動状態の兆候を見出したことを共同で発表した。
同成果は、電通大大学院 情報理工学研究科の池田暁彦助教、東大 物性研究所の松田康弘教授、茨城高専の佐藤桂輔准教授、東北大大学院 理学研究科の那須譲治准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
多彩な秩序化が起こることが注目されている遷移金属酸化物のうち、「磁気励起子」というユニークな自由度を持つことで知られるのがLaCoO3などのコバルト酸化物だ。この磁気励起子の粒子的かつ波動的なふるまいには謎が多く、固体物理における最大の難問の1つとされ、研究が続けられて60年以上になる。さらにLaCoO3は、1000テスラ級の非常に強い磁場中において、磁気励起子の結晶化やボーズ・アインシュタイン凝縮などの新たな現象が起こることが予想されている。
LaCoO3のような磁気励起子を有するコバルト酸化物の状態変化は、伸縮を見れば観測することが可能だという。超強磁場中で磁気励起子が固体を組んだ場合は、外部磁場の変化に対して結晶の伸縮は起こらない。ところが同じ超強磁場中でも、磁気励起子が超流動状態や超固体状態などの「超」状態になった場合は、量子力学的効果が強くなるため、外部磁場の変化に応じて結晶が連続的に伸縮することが予想されていた。
しかしこのような強磁場は、世界最強の磁場発生装置を利用しても10マイクロ秒程度の一瞬しか発生させることができない。この極限環境において、一瞬かつ1回限りで物性を計測可能な技術が必要となることが課題となり、これまで同分野ではあまり研究が進んでいなかったとする。そこで研究チームは今回、1000テスラ級電磁濃縮超磁場発生装置に独自開発の超高速ひずみ計測技術を導入し、瞬間的に発生した超強磁場中でLaCoO3結晶の伸縮を一瞬かつ1回限りで計測することにしたという。
研究チームが2018年に開発したのが、新型の電磁濃縮法超強磁場発生装置だ。これを用いることで、1000テスラ級の世界最強磁場を発生させることができる。今回はその磁場に、ファイバーブラッググレーティングを使って独自に開発した100MHzの超高速ひずみ計測法を導入。その結果、最強磁場が発生した一瞬のうちに、600テスラまでのLaCoO3の格子ひずみを、超高速かつ1回で観測することに成功した。研究チームはこれにより、超強磁場中で結晶が伸縮する過程を明らかにし、特徴的な新たな電子磁気状態が存在することを確認したという。
研究チームによると、今回の成果はLaCoO3の基本的な性質を明らかにするもので、コバルト酸化物を用いた微小なスイッチなどのデバイス開発に大きく役立つ知見になると同時に、スピントロニクス技術におけるスピン流生成や量子コンピュータなどへの応用が見込まれるとした。
また、超高速ひずみ計測法は超伝導体から金属まであらゆる固体に適用可能であるため、超強磁場の発生と計測技術を併用することで、今後も1000テスラ級の超強磁場において、新たな電子状態や相転移などが発見できることが期待されるとしている。