東北大学と日本原子力研究開発機構(原子力機構)の両者は4月4日、光電子顕微鏡と光電子分光法および第一原理計算によって、六ホウ化ランタン(LaB6)の表面に「六方晶系窒化ホウ素」(hBN)のコーティングをすることで仕事関数が低下し、電子の放出量が約7倍に増加することを発見し、同時にそのメカニズムを解明したことを共同で発表した。
同成果は、東北大 国際放射光イノベーション・スマート研究センター 兼 多元物質科学研究所の小川修一准教授(現・日本大学生産工学部)、米・ロスアラモス国立研究所、中国・北京理工大学、原子力機構の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学協会が刊行する応用物理学全般を扱う学術誌「Applied Physics Letters」に掲載された。
固体内部に存在する電子を空間中に取り出すことで、電子顕微鏡や放射光発生のための加速器などに応用でき、物質材料の評価に役立てることができる。また電子線は、材料の評価だけでなく、電子線描画装置というナノレベルの半導体微細加工技術にも必要不可欠で、その応用は多岐にわたっている。
固体から電子を放出させて電子線を形成する場合、「仕事関数」の値が低いほど、大量の電子を放出することが可能だ。そのため現在では、仕事関数の低いLaB6が主に利用されている。清浄なLaB6表面の仕事関数は2.3eV程度だが、これよりもさらに低い仕事関数の材料を開発することができれば、より多くの電子放出が可能となり電子源の高性能化につながる。
それと同時に、LaB6表面の低い仕事関数を長期間にわたって維持することも重要な課題だという。LaB6電子源は気体分子の少ない真空中で利用されるが、それでも残留ガスによって表面が徐々に酸化される。表面が酸化したLaB6は仕事関数が増加してしまうのだが、それを回復させるためには1900℃以上の高温加熱が必要となる。さらに、著しく酸化が進行したLaB6はこの高温加熱クリーニングでも仕事関数が回復しないという問題を抱えていたとする。
これらの問題を解決するため、研究チームはこれまで、LaB6表面へのコーティングによって仕事関数を低下させたり、コーティングが酸素に対するバリアとなることでLaB6の酸化を防いだりできるのではないかと考察し、グラフェンおよびhBNによるコーティングの研究を進めてきたという。そして今回は、LaB6表面にグラフェンおよびhBNをコーティングし、コーティング材料の種類によって仕事関数がどのように変化するのかを光電子顕微鏡と光電子分光法を用いて調べることにしたとする。
その結果、何もコーティングしていないLaB6表面に比べてグラフェンコーティング表面では仕事関数が増加したものの、hBNコーティング表面では仕事関数が減少したことが確認されたという。また熱電子顕微鏡を用いて、hBNコーティングされた表面が最も多い電子を放出していることも実験的に確認できたという。