異なる条件下で得られた2種類の結晶の解析を行った結果、1つはシュウ酸の輸送経路を菌体の外(腸内側)に開いた「外開き構造」、1つはシュウ酸を結合し輸送経路を閉じている「閉じ構造」という、OxlTが輸送の各段階で取る構造のうち2段階の構造がわかった。OxlTは、外開き構造では正電荷を帯びた輸送経路を開いており、シュウ酸が結合しない限り電荷反発で経路を閉じられない一方、負電荷を帯びたシュウ酸が結合すると、電荷が中和され輸送経路を閉じて、次の段階である閉じ構造に移行できる仕組みとなっていたという。

  • OxlTによるシュウ酸輸送過程と、今回明らかにされた結晶構造

    OxlTによるシュウ酸輸送過程と、今回明らかにされた結晶構造(出所:岡山大プレスリリースPDF)

また閉じ構造では、OxlT分子の中心に基質結合ポケットが形成され、その中にシュウ酸を結合している様子が明らかにされた。シュウ酸はカルボキシ基を2つ持つジカルボン酸だ。クエン酸回路の代謝産物の1つであるコハク酸をはじめとするさまざまなジカルボン酸は、腸内を流れる栄養素の中にも、シュウ酸分解菌内にも存在する。

一方、OxlT内の結合ポケットは、炭素数2の最小のジカルボン酸であるシュウ酸であれば収まることができ、炭素数4のコハク酸などシュウ酸よりも大きいジカルボン酸は、大きすぎてポケットに収まらないことが判明したという。このことから、ヒトや分解菌にとって栄養素となるシュウ酸以外のジカルボン酸については、誤って菌内に取り込んだり菌内から排出したりしない仕組みとなっていたとする。

今回の研究でOxlTの2種類の構造から見られたように、一般的に輸送体タンパク質は、構造を変えながら物質を細胞の外から中へ輸送する。OxlT分子は、構成アミノ酸の約8分の1を柔軟性が高いグリシンが占めており、構造変化が起こりやすい柔軟な構造を持っていることが明らかにされた。

また、その変化をシミュレーションした結果、輸送経路を閉じているたった1つのアミノ酸が向きを変えると、掛け金が外れたように輸送経路を開き、閉じ構造から外開き構造に転換することがわかったとする。このような構造変化の起きやすい構造的特徴が、OxlTによる効率のよいシュウ酸吸収とギ酸排出を支えているものと考えられるという。

現在、尿路結石発症原因となる高シュウ酸尿症改善法の1つとして、シュウ酸分解菌の経口投与が検討されている。研究チームは、今回の研究で得られた知見が、シュウ酸吸収条件の最適化など、同菌に着目した治療法開発の基盤となることが期待できるとしている。