スペース・デブリと天文学への影響対策も

スターリンクをめぐって、かねてより懸念されているのが、宇宙ごみ(スペース・デブリ)問題への対策である。何万機もの衛星を打ち上げると、故障時や運用終了時にデブリになったり、他の衛星やデブリと衝突したりする危険性が上がる。

そのためスペースXでは、スターリンク衛星はすべて高度600km以下の軌道で運用することを前提としている。高度600km以下は大気がわずかにあるため、故障した衛星や運用を終えた衛星は、大気との抵抗で自然に高度が落ち、5年以内に大気圏に再突入するという。

また、ロケットによる打ち上げ直後にはまず、一旦高度400km以下の軌道に投入することで、国際宇宙ステーション(ISS)などの有人施設に影響を与えないようにしている。加えて、この軌道で初期のシステム確認を行い、それに合格しなかった衛星は、スラスターの噴射によって能動的に、あるいは大気抵抗によって速やかに軌道から脱離するとしている。

さらに、自律型衝突回避システムも搭載しており、デブリや他の衛星と接近する可能性があれば、衛星に対して自動的に指令を出し、軌道変更して回避する仕組みもある。

そしてミッション終了後には、数週間以内にスラスターの噴射で軌道から離脱させるとしている。これは、国際標準である25年を大きく上回っている。くわえて衛星は再突入時に完全に消滅するように設計されており、破片が地上に落下するリスクを排除している。

これらはすでに従来のスターリンク衛星でも採用されており、スペースXはV2ミニでも踏襲するとしている。

スターリンクをめぐってはもうひとつ、天文学への悪影響という問題もある。従来のスターリンク衛星、とくに初期の衛星は、太陽光の反射によって明るく輝いてしまい、いくつもの光点が数珠つなぎになって夜空を流れる様子が世界中で観測された。一見すると銀河鉄道のようで美しいものの、天体観測にとっては邪魔者以外の何者でもなく、天文学者や天文ファンから非難の声が上がった。

  • 2019年5月、米国のローウェル天文台で撮影された星空

    2019年5月、米国のローウェル天文台で撮影された星空。多数の斜線はすべてスターリンク衛星によるものである。現在では反射が抑えられた新しい衛星が打ち上げられているため、これほど明るく映り込むことはないが、それでも問題が完全に解決したわけではない (C) Victoria Girgis/Lowell Observatory

このためスペースXでは、太陽光を吸収するために衛星を黒く塗ったり、また太陽光が衛星に当たって地球に反射するのを防ぐための“サンバイザー”を装備したりした衛星を開発するなどの取り組みを進め、実際に打ち上げて効果を確かめてきた。また、反射面の表面積を最小限に抑えるため飛行形態の変更も実施するなどし、実際に暗くなっていることが確認されている。

さらに最近も、衛星の表面に貼り付けることができるフィルム状のダイクロイック・ミラーや、低反射率の黒色塗料といった新技術を開発。実際に衛星に装備して実証が行われ、これまでよりも暗くなることが確認されている。

スターリンクV2ミニ、またV2でも、こうした対策を最初から取るとしており、さらに改良も続けていくという。また新たに、衛星が運用終了に近づいたときは、太陽電池パドルをオフポインティングして太陽光を地球に向けて反射させないようにする運用も行うとしている。

こうした対策により、V2ミニ衛星は従来の衛星よりも大きくなっているにも関わらず、明るさは同じか、あるいはより暗くなることが予想されるという。

ただ、実際にどれくらいの効果があるかは、今後の地上からの観測、解析を待つ必要があるとしており、また観測で得られた知見を、さらなる改善や改良に役立てるとしている。

スペースXは「天文学者と協力して、衛星の明るさを軽減する努力を続けます」とコメントしている。

さらに、知見を他の事業者と共有することで宇宙空間の保護に役立てたいともしており、フィルム状のダイクロイック・ミラーや、低反射率の黒色塗料を、他の衛星開発者やオーナー、オペレーターに無償で提供していくとしている。

  • 太陽光を地球に向けて反射させないようにするためのサンバイザーを装備した「バイザーサット」の想像図

    太陽光を地球に向けて反射させないようにするためのサンバイザーを装備した「バイザーサット」の想像図。2020年から第一世代の衛星で試験され、実際に暗くなる効果が確認されている。こうした技術はV2にも受け継がれている (C) SpaceX

参考文献

- SpaceX - Launches
SECOND GENERATION STARLINK SATELLITES
SpaceX(@SpaceX)さん / Twitter