米宇宙企業スペースXは2022年2月8日、4日に打ち上げたインターネット衛星「スターリンク」49機のうち、約40機を喪失することになったと発表した。

打ち上げ直後で低い高度の軌道を周回していたところ、磁気嵐の影響で地球が暖められ膨張。衛星が周回していた高度の大気密度が上昇し、大気との抵抗によって大気圏に再突入してしまうためだという。

すでに一部の衛星は再突入しており、今後数日のうちにさらに多くの衛星が再突入するとしている。衛星は再突入時に燃え尽きるように設計されているため、軌道上に破片は発生せず、衛星の部品が地上に落下することもないとしている。

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    スターリンク衛星の想像図 (C) SpaceX

磁気嵐の影響でスターリンク衛星を喪失

喪失したスターリンク衛星は、日本時間2月4日3時13分(米東部標準時3日13時13分)、フロリダ州のケネディ宇宙センターから「ファルコン9」ロケットで打ち上げられた。

ロケットに搭載されていた計49機のスターリンク衛星は、近地点(軌道の中で最も地球に近づく点)高度210kmの軌道に投入。その後、搭載機器の点検などを行う初期チェックアウトが行われていた。

210kmという高度は、人工衛星の高度としてはかなり低く、比較的短期間で大気圏に再突入してしまうほどである。スペースXでは、打ち上げ直後のスターリンク衛星をあえて低い軌道に投入することで、初期チェックアウトを通過できなかった(故障した)衛星が発生した場合に、なるべく早く、自然に大気圏に落ちるようにしている。これにより、故障した衛星がスペース・デブリ(宇宙ごみ)となって軌道上にとどまり続けるのを防ぐことができる。

一方、チェックアウトを無事通過した衛星は、衛星自身が装備している電気推進エンジンを使い、高度を約540kmまで上げ、運用が行われる。

今回打ち上げられたスターリンク衛星は、順調に初期チェックアウト・フェーズをこなし、その後の軌道高度の上昇と運用開始に向けた準備を行っていた。ところが打ち上げ翌日の5日、折り悪く発生した磁気嵐の影響で、大気が暖められて膨張。衛星が周回していた高度での大気密度が増加した。スペースXは「衛星に搭載していたGPSのデータから、大気抵抗がこれまでの打ち上げ時より最大で50%も増加した」としている。

スターリンクの運用チームは、49機の衛星を「エッジオン(edge-on)」と呼ばれる、大気との抵抗を最小限に抑えるための姿勢にした。スターリンク衛星は薄い板のような形状をしているため、飛行方向に対して立てるような姿勢にすることで、対気断面積を小さくすることができる。

しかし、それでも増えた抵抗を打ち消すことはできず、最大40機の衛星が大気圏に再突入することが判明。また発表の時点で、すでに数機は再突入したとみられるという。

スペースXは、軌道上の物体を監視、追跡している米国宇宙軍や、民間企業のレオラボズ(LeoLabs)と連携し、各衛星の軌道を監視し続けた。それによると、軌道を離脱した衛星は、他の衛星との衝突の危険性はないとしている。

また、スターリンク衛星は大気圏再突入で完全に燃え尽きるように設計されているため、軌道上に破片は発生せず、また衛星の部品が地上に落下することもないとしている。

これについて、スペースXは「スターリンクのチームが、軌道上のデブリを軽減するパイオニアとして、多大な努力を払ってきたことの賜物」とし、「衛星をいったん低い軌道に投入してから運用開始までもっていくためには、衛星を高性能にする必要があり、かなりのコストがかかります。しかし、持続可能な宇宙環境を維持するためには正しいことだと考えています」とコメントしている。

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    スターリンク衛星を載せたファルコン9ロケットの打ち上げ (C) SpaceX

当面はやや高い軌道へ打ち上げ

今回の事態を受けて、スペースXでは今後当面、スターリンク衛星を最初に投入する軌道の高度をやや高くするとしている。実際、2月21日のスターリンク衛星の打ち上げでは、高度約320kmの軌道に投入されている。

ただ、高い高度の軌道に投入するためには、従来より多くのエネルギーが必要になるため、搭載できる衛星を減らす必要がある。そのため、21日の打ち上げでは、搭載数が3機少ない46機に減らされている。

今回の被害をもたらした磁気嵐は、1月29日に太陽表面で大規模な爆発現象「太陽フレア」が発生したことが原因とみられる。太陽フレアは高温のガスと、それにともなうX線や紫外線、電波を吹き出す。それが地球に到達すると、地球の磁場(地磁気)が乱される磁気嵐が発生する。大規模な磁気嵐が起こると、送電線に影響を与えて停電が発生したり、衛星の故障したりすることがあるほか、そのエネルギーが大気に注入されることで、今回のように大気が加熱され、膨張することもある。

“宇宙天気”を観測している米国海洋大気庁(NOAA)や日本の情報通信研究機構(NICT)などは、この前の週に、この太陽フレアによって「中程度の磁気嵐が発生する」という予報を出していた。

太陽活動は、約11年の周期で活動が強くなったり弱くなったりを繰り返していることが知られている。2022年現在は活動的になりつつある段階にあり、2023~26年ごろに極大を迎えると予測されていることから、今後も同様の事態が発生する可能性がある。

地上を停電させたり、衛星を故障させたりするほどの大規模な磁気嵐はめったに起こらず、今回のような大気の膨張による抵抗の増加も、他の衛星は低くとも高度300km以上を周回しているため、大きな影響とは起こりにくい。

しかし、前述のような事情で、打ち上げ直後は低高度を飛ぶスターリンク衛星にとっては大きな問題であり、今後もやや高い軌道への打ち上げ、それによる打ち上げられる衛星数の減少といった影響が続くものとみられる。

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    2014年にNASAの太陽観測衛星「SDO」が観測した太陽フレア (C) NASA/SDO

スターリンクは、スペースXが構築を進めているインターネット衛星計画で、地球を覆うように最大約4万2000機の衛星を打ち上げ、全世界にブロードバンド・インターネットを提供することを目指している。

打ち上げる軌道によって異なるが、ファルコン9ロケットによって1回の打ち上げあたり40~60機ほどの衛星が送られており、2月22日までに37回の打ち上げを実施。初期に打ち上げられた衛星などすでに運用を終えているものもあるが、1500機ほどが稼働中とみられる。

すでに希望者を対象としたテストが始まっているほか、2021年9月には、KDDIがau基地局のバックホール回線(基地局と基幹ネットワークをつなぐ中継回線)として利用する契約を締結している。

参考文献

SpaceX - Updates
レポート | 宇宙天気予報
Starlink Mission - SpaceX - Updates
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