東京都立大学(都立大)、島根大学、東京大学(東大)、北海道大学(北大)、広島大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)の6者は3月2日、超伝導体や熱電材料として注目されている「ハイエントロピー型金属テルライド」の局所構造乱れ、原子振動特性、電子状態を解明したことを共同で発表した。

同成果は、都立大大学院 理学研究科の水口佳一准教授、同・栗田玲教授、島根大 総合理工学部の臼井秀知助教、東大 生産技術研究所の高江恭平特任講師、北大大学院 工学研究院の三浦章准教授、広島大 先進理工系科学研究科の森吉千佳子教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、材料の物理学を扱う学術誌「Materials Today Physics」に掲載された。

ハイエントロピー合金とは、5元素以上が固溶した合金のうち、それぞれの元素の占有率が5~35%を占めるもののことをいう。金属テルライドは常圧下ではNaCl型構造を取るが、高圧印加によってCsCl型構造に変化し、超伝導転移温度(Tc)が上昇する。この高圧領域において、PbTeや(Sn,Pb)Teなどは加圧によるTcの低下を示すが、ハイエントロピー組成(Ag,In,Sn,Pb,Bi)TeではTcが変化しないため、高い圧力領域でのTcは(Ag,In,Sn,Pb,Bi)TeがPbTeを大きく上回る。

この圧力下Tc不変現象は、より複雑なハイエントロピー金属テルライドで観測されているため、高い配置エントロピー(ΔSmix)によって生じた局所構造乱れや、それに起因した特異な原子振動特性や電子状態が影響している可能性が想定されていた。しかし、局所乱れの評価や原子振動特性、電子状態に関する研究は進んでおらず、圧力下Tc不変現象の起源は不明だったという。

また、ハイエントロピー金属テルライドは、超伝導のみならず熱電材料としても高性能を示すことが報告されており、局所乱れの評価と原子振動特性および電子状態の解明は、重要な課題となっていた。そこで今回の研究では、NaCl型構造を持つ金属テルライドMTeにおいて、MサイトをAg、In、Sn、Pb、Biで固溶した合金を対象とすることにしたという。

元素固溶によってΔSmixは上昇するため、ハイエントロピー合金は一般的にΔSmix>1.5R(Rは気体定数)を持つ。今回の研究ではΔSmixが0~1.6Rとなる試料が多数設計され、結晶構造および局所乱れの大きさが評価された。すると、ΔSmixの上昇により局所的に構造乱れが導入されていることが見出されたとする。