高輝度光科学研究センター(JASRI)、理化学研究所(理研)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)は2月14日、溶液中で光を吸収した溶質分子(溶け込んだ物質)とその周りを囲う溶媒分子がお互いに影響し合いながら、光化学反応が進行するメカニズムを原子レベルで解明することに成功したと発表した。

同成果は、JASRI XFEL利用研究推進室の片山哲夫主幹研究員、理研 放射光科学研究センター 利用システム開発研究部門 SACLAビームライン基盤グループの矢橋牧名グループディレクター(JASRI XFEL利用研究推進室室長兼任)、KEK 物質構造科学研究所の野澤俊介准教授、同・足立伸一理事らに加え、海外の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会の機関学術誌「Chemical Science」に掲載された。

溶液において溶媒の種類を変えると化学反応のスピード、反応中間体の寿命、生成物の種類や収率が変わり、気相中で進行する化学反応とはまったく異なる結果が得られることも少なくない。それは「溶媒和効果」と呼ばれ、それが化学反応において重要な役割を果たしていることは以前から知られていた。しかし、これまでは溶質分子と溶媒分子それぞれの原子位置の変化を正確に追跡することが困難だったため、その微視的なメカニズムの詳細は不明なままだったという。

そうした中、10フェムト秒という極短時間において起きる、10pmオーダーの微小な原子位置の変化を検出するのに適した光源として、近年はX線自由電子レーザー(XFEL)が活躍している。

そのXFELと可視光レーザーを組み合わせた「時間分解X線吸収分光法」を用いて、2019年に研究チームは、光増感剤のプロトタイプである「銅(I)フェナントロリン錯体」に光エネルギーを与えると、分子が振動しながら正四面体型から平面型へと平坦化する様子を観察することに成功したことを報告していた。

ただしこの手法では、X線を吸収する銅原子に結合している原子の位置が変化する様子しか把握できないため、金属錯体の周囲に離れて位置している溶媒分子の動きまでは不明なままだったとする。そこで研究チームは今回、より広範囲まで原子位置の変化を精密に可視化できる「時間分解X線溶液散乱法」と「時間分解X線発光分光法」を相補的に組み合わせることで、この課題に取り組むことにしたという。