広島大学、京都大学(京大)、高輝度光科学研究センター(JASRI)の3者は2月24日、「有機薄膜太陽電池」(OPV)の発電材料である有機半導体の高結晶化によりエネルギー変換効率を向上させることに成功したと共同で発表した。

同成果は、広島大大学院 先進理工系科学研究科の尾坂格教授、同・斎藤慎彦助教、同・山中滉大大学院生、京大大学院 工学研究科の大北英生教授、同・KIM Hyung Do助教、同・齊藤隼人大学院生、JASRI 放射光利用研究基盤センターの小金澤智之主幹研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、環境発電やエネルギーの変換・貯蔵などに使用される材料に関する全般を扱う学術誌「Advanced Energy Materials」に掲載された。

OPVは、溶液プロセスによってプラスチック上に製造でき、軽量、フレキシブル、シースルーなどの特徴を持つ。そのため、建物の壁や窓などの垂直面や、テントやビニールハウスなどへの応用も可能だ。しかし、OPVの変換効率が従来のシリコン太陽電池よりも低いことが課題となっていた。

OPVの発電層には、正電荷を輸送するp型有機半導体と、負電荷を輸送するn型有機半導体の混合膜が用いられる。高効率化を実現するには、これら有機半導体の結晶性を高め、光吸収により生成された電荷が効率的に電極まで輸送されるようにする必要がある。しかし、異なる有機半導体を混ぜた状態で、それらを結晶化させるのは非常に困難だった。

そこで研究チームは今回、p型有機半導体としては2種類の結晶性半導体ポリマーを、n型有機半導体としては4種類のフラーレン系および非フラーレン系材料を用いて、どのように組み合わせれば半導体ポリマーが結晶化し、OPVが高効率化できるかを確かめることにしたという。

今回の研究では、p型有機半導体としては、広島大が開発した「PTzBT」と「PTzBTE」の2種類の半導体ポリマーが用いられた。一方n型有機半導体は、フラーレン系材料の「PCBM」と、非フラーレン系材料の「IT-4F」、「Y6」、「Y12」が用いられた。そしてそれぞれを組み合わせ、合計8種類のOPV素子が作製された。

n型にPCBMまたはY12を用いた素子では、p型にPTzBTまたはPTzBTEのどちらを用いても、OPVの外部量子効率は同様だったという。しかし、n型にIT-4FまたはY6を用いた素子では、p型でPTzBTEを用いた方がPTzBTよりも外部量子効率が顕著に高いことが判明した。そのエネルギー変換効率は、n型がIT-4Fの時にp型がPTzBTEで12.0%、そしてPTzBTで8.7%。また、n型がY6の時にPTzBTEで13.4%、PTzBTで7.0%だった。なお、Y12とPTzBTEを組み合わせた素子では、約15%の変換効率が得られたとする。

  • (上)今回の研究で用いられた半導体ポリマーのPTzBTとPTzBTEの化学構造。(下)p型有機半導体であるPTzBTおよびPTzBTE、n型有機半導体であるY6およびY12をそれぞれ組み合わせたOPV素子における波長ごとの外部量子収率。(a)Y6を用いた素子。(b)Y12を用いた素子

    (上)今回の研究で用いられた半導体ポリマーのPTzBTとPTzBTEの化学構造。(下)p型有機半導体であるPTzBTおよびPTzBTE、n型有機半導体であるY6およびY12をそれぞれ組み合わせたOPV素子における波長ごとの外部量子収率。(a)Y6を用いた素子。(b)Y12を用いた素子(出所:広島大プレスリリースPDF)