TXアントレプレナーパートナーズ(TEP)は2月16日、成長が期待されるシード・アーリー期の技術系スタートアップを選出・表彰するイベント「第7回 J-TECH STARTUP SUMMIT」を開催した。
同イベントでは、グローバルな成長が期待される国内の技術系スタートアップ6社が、「J-TECH STARTUP 2022」認定企業として選出された。
本記事では同認定企業のうち、VC(ベンチャーキャピタル)などから出資を受けており資本金が3億円以下の企業を対象とした「アーリー枠」の3社の事業および今後のビジネス展開を紹介する。
スマホアプリでドライアイの診断を身近に - InnoJin
InnoJin(イノジン)は、眼科領域におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を目標に、診断・治療のためのスマホアプリ開発や、VRを活用した治療サービスの開発を行う医療ベンチャーだ。イベントでは、ドライアイの診断補助用スマホアプリが紹介された。
同社によれば、慢性的に目の不快感や見えにくさなどが生じるドライアイの患者は、日本だけでも2000万人、世界では10億人もいるという。そのうち、医療機関での診断や治療を行っていない未診断者率は72%という報告も出てきているそうだ。
ドライアイの確定診断には、涙を特殊な薬品で染める生体染色検査が用いられる。この検査のためには、眼科にて対面診療で涙を染めなければならない。同社のスマホアプリでは、従来の染色検査に代わる非侵襲的・非接触的な検査を提供する。具体的には、自覚症状に関する質問や、まばたきを我慢できる時間の計測を通じてドライアイかどうかの判定を行う。
同社によれば、ドライアイを遠隔で検査する製品・サービスは日本初だという。今後は他の医療機関での臨床研究を2023年3月から実施。同研究を踏まえて検証的治験を実施した後は、2025年までにスマホアプリの薬事承認と保険償還を済ませて、医療機関への提供を開始する計画だ。サービス提供後は医療機関がアプリを導入し、患者にアプリを利用してもらうという。
すべてのドライアイ患者が検査するとして、同社は約1000億円の市場規模を見込んでいる。アプリ提供後は、2028年までに100施設での導入。2030年までに約30億円の市場獲得を目指す。
眼科医で、InnoJin 取締役 COO(最高執行責任者)を務める奥村雄一氏は、「ドライアイは疾患を抱えている人が多い一方で、しっかりと対策がされていないのが現状だ。加齢やストレス、PCやモニター作業による目の酷使がドライアイの増悪のリスク因子とされており、今後も患者数の減少は期待できないだろう。ゆくゆくはオンライン診療と組み合わせることで、平日の時間確保が難しい就労世代や、へき地で通院困難な人にドライアイの治療を届けたい」と述べた。
月面探査技術を応用しロボティクスを社会実装 - Piezo Sonic
Piezo Sonicは、超音波モーターの「Piezo Sonic Motor」と、同モーターを活用した屋外走行が可能なAMR(Autonomous Mobile Robot)を開発するロボティクス関連のスタートアップだ。
同社のモーターは、DC(Direct Current)モーターの半分の消費電力で動くうえ、待機電力ゼロで姿勢を保持することができる。例えば、同モーターを使用したロボットアームでは、電気を使用せずに10センチメートル先の牛乳パックを把持し続けることが可能だという。
Piezo Sonic 代表取締役の多田興平氏は、JAXAの研究員として長年、月面探査ロボットや宇宙探査機用のモーターの設計・開発に携わってきた。これまでの研究成果をロボティクスの社会実装に生かせると考え、ロボットを活用した生活サポートサービスの提供を念頭に、同社のモーターを生かしたロボットを開発する。
「全世界の消費電力のうち、約半数はモーターに利用されている。当社のモーターで世界の消費電力を削減したい。そして、『ケガや病気になっても楽しめる生活ができる社会』を実現すべく、ガタが無く(ノンバックラッシュ)、非磁性で、さまざまな場所で利用できる力強いモーターを応用した機器・ロボットを提供していく」と多田氏。
同社では現在、労働人口減という社会課題にフォーカスを当て、重い荷物の運搬を代用する搬送ロボットの開発を進める。すでに、独自のモーターと月面探査ローバーの技術を応用したAMD「Mighty-D3」を開発済みで、大学や工場などで実証実験を重ねている。
同ロボットは、四輪のスアリング部分にPiezo Sonic Motorを利用しており、凹凸のある一般路面を走行できるうえ、15センチメートルの縁石の多段乗り越えや真横への移動、その場での旋回などが可能だ。
マイクやカメラを備えてコミュニケーションロボットして運用するほか、ロボットアームを取り付けて作業の自動化に利用することもできるという。
「薬がない」で医療を諦めない社会を - FuturedMe
FuturedMe(フューチャードミー)は、遺伝子検査を行い患者1人1人に合った治療を行う「がんゲノム治療」において、治療対象となる標的(タンパク質)がわかっているにもかかわらず、現在は薬を作れていない標的(アンドラッガブルターゲット)に対する創薬事業を展開している。
アンドラッガブルターゲットに対する創薬においては、FuturedMe 代表取締役CEOの宮本悦子氏が東京理科大学で発明した分解創薬技術「CANDDY(Chemical knockdown with Affinities aNd Degradation DYnamics)」が用いられる。
従来のがん治療で用いられる阻害薬では、標的となるタンパク質の中に存在するポケットに薬が結合することで、標的の機能を阻害し治療しようとする。一方、CANDDYは、生体が備えるタンパク質分解酵素(プロテアソーム)を利用して、標的そのものを分解することが可能な技術となる。
宮本氏は、「従来からある阻害薬は、約25%の標的に対してしか創れないが、CANDDYを活用することで、すべての標的に対する創薬の可能性が出てくる。当社では、薬がないことで治療をあきらめる患者が、1人でも少なくなることを目指している」と語った。
現在、同社ではアンドラッガブルターゲットを自社創薬するパイプライン事業と、製薬会社と協業して解決するプラットフォーム事業を展開している。
将来的には、自身の遺伝子の変異情報を基に薬をオーダーで作成・利用できる「マイゲノム・マイメディシン」領域での事業展開も行っていくという。