研究チームはこれまで、NAD+/NADHをモデルとした配位子を持つ酸化型ルテニウム錯体が、電子源とプロトン存在下で分子間不均一化反応を経て還元型ルテニウム錯体となり、強い塩基(安息香酸アニオン)存在下でCO2をギ酸へと還元することを報告済みだ。しかしこの反応系では、酸化型ルテニウム錯体から還元型ルテニウム錯体への還元が難しく、この錯体が一度しか使えないという大きな課題があったとする。

そこで今回の研究では、化学物質「1,3-ジメチル-2-フェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[d]イミダゾール」(BIH)を電子源として用いて、酸化型ルテニウム錯体が還元型ルテニウム錯体へと還元するようにしたという。さらに、還元型ルテニウム錯体の配位子の有機ヒドリドがCO2をうまく還元することで、触媒的にCO2の還元反応が進行することも確認された。

また今回の研究では、BIHから生じたBI・が還元型ルテニウム錯体をさらに一電子還元させ、このルテニウム錯体が反応の活性種であることも明らかにされた。CO2を還元させた活性種は、中性のラジカル種となり、このラジカル種がすぐに再び分子間不均一化反応を経て、還元体と酸化体となり、触媒的に反応が進行したことが考えられるという。

今回の研究により、世界で初めて再生可能な有機ヒドリドによるCO2光還元反応が示された。研究チームはこの成果により、これまで再生不可能だった金属ヒドリドに置き換わる新たな有機ヒドリドによる還元反応へと広がっていくことが期待されるとする。さらに、この系を発展させることで、CO2の化学変換(大気中からの削減)や、それに伴う新たな化学燃料の合成が可能となり、人工光合成の創製も期待されるとした。