そこで、それぞれのペプチドで修飾されたGFETにおいて、ペプチド修飾前後の電気伝導特性が調べられた。その結果、これらのペプチドによってグラフェン中の電子濃度が増加していることが判明した。さらに、トランジスタのセンサ感度を決定づける相互コンダクタンスのペプチド修飾による減少は8%未満であり、ペプチド薄膜がバイオセンシングに向けたトランジスタの性能を低下させないことも証明された。

  • (a)GFETの模式図とグラフェン電極表面におけるペプチドの自己組織化構造。(b)ペプチドの吸着によるGFETのゲート特性の変化

    (a)GFETの模式図とグラフェン電極表面におけるペプチドの自己組織化構造。(b)ペプチドの吸着によるGFETのゲート特性の変化(出所:東工大プレスリリースPDF)

次に、標的分子に対するペプチド修飾GFETの感度について、リモネンの濃度変化に対する電気伝導度の時間変化を用いて評価が行われた。このときリモネンの濃度は10pM~10nMと非常に低濃度だったが、どの濃度においても電気伝導度の変化が非常に早く、センサ表面が短時間で平衡状態に達したことが示されたという。

また電気伝導度の変化は、全ペプチドにおいて、リモネン濃度の増加とともに単調に変化することも確認された。さらに、電気伝導度変化の絶対値を濃度に対してプロットすると、特に低濃度領域において、ペプチド間に絶対値の明らかな差が見られたことから、ペプチドのアミノ酸配列によって、リモネンへの時間応答が如実に変化することが明らかにされた。

加えて、各ペプチド感応膜の標的分子に対する電気応答の特徴を区別するため、ペプチドの標的分子に対する吸着および脱離過程における電気伝導度の変化が計測され、主成分分析(PCA)が行われた。PCAの入力パラメータには、吸脱着速度に関する情報を与える電気信号が用いられた。そしてこのPCAの結果をプロットしたところ、それぞれの匂い分子がプロット内の異なる位置に分布することが確認された。このことから、各ペプチドを用いたグラフェン匂いセンサが3種類の匂い分子を認識していることがわかったのである。

ペプチドは天然のタンパク質と比較して、アミノ酸配列が圧倒的に短く取り扱いが簡便なことから、グラフェンを用いた匂いセンサの実用化に大きく貢献することが期待されるという。さらにペプチドは設計性が高く、化学合成できることから、多種多様な匂い分子に対する感応膜を形成可能だ。研究チームは、将来的には、複数種の設計されたペプチドが1つのチップに搭載されたGFETアレイを用いることで、多様な匂い分子を高い選択性で多次元的に分析することも可能になることが期待されるとした。